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コードネームはBoo! (7)
林原力志

 その男は俺の隣にどっかりと座りこんできた。
 幾分、窮屈になるが、そんなことはおかまいなしにノートパソコンを2台とも開いて何やらものすごいスピードでキーボードを叩き始める。
 強く押しこんだり指を叩きつけたりしない、ソフトタッチでピアノでも演奏するようにカタカタと何事かを入力している。

「タイプライターじゃないんだから軽く押せば反応するんだよ。それにこの方が早いだろう」

 左右の画面を見ながらも時折、こちらを見てくる。
 右手は右側の、左手は左側のパソコンをそれぞれ打っているのに器用なもんだ。

「彼は細田クン。あなたのパートナーよ。バックアップを完璧にこなしてくれるから安心していいわ」

 女社長が目の前にいる俺たちを見ながら、自信満々といった風で紹介してくれた。

「鷹城です、よろしく」

 紹介してもらったのに黙ってるのもおかしいと思って、横から遠慮気味に自己紹介した。

「ああ、よろしく。よくフトダの間違いだろうなんてからかわれるよ。体質でね。子供の頃はコンプレックスだったけど、今ではこの通り。好きな格好で好きなパソコンを使って仕事が出来るから、社会人じゃなかなか表現できない個性ってやつを体現してると考えてるんだ」

 言われてみれば、ずいぶんとラフな格好をしている。
 ケミカルジーンズにデイパックにTシャツの袖をまくり上げて・・・そんなアキバ・カジュアルが似合うような気がしないでもないが、彼はハーフパンツにアロハシャツを着ていた。
 足元を見るとサンダル履きだった。
 キバカジじゃないだけに、そこそこオシャレなのかもしれない。
 ゴツいビーチサンダルかと思いきや、ビルケンシュトックだ。

「もちろん、聖戦に行く時はキバカジだよ。あれが制服みたいなもんだからね」

 聖戦とは年に2回あるマガジンマーケット、通称マジケのことを指していて、そこでは高価な「価値モノ」が大量に取引されるんだと説明された。
 他にも撮る時は横入りせずに並ぼうだの、挨拶くらいはしようだの、企業ブースが幅を利かせる前が良かったなど、未知の世界について解説してくれた。

 そんなことを話しながらも、彼はUSBで小型のパソコンらしきものを繋ぐ。
 あとで聞いたことだが、これはPDAでもスマートフォンでもなく、ネットトップPC並みの性能を持つ細田オリジナルの機器らしい。
 実際、iP○dくらいの大きさくらいだが・・・これじゃ伏字になってないか。

「よし、セットアップ完了。これは衛星にもリンクできる優れモノで、君が扱えなくても衛星は君の位置を把握してくれる。カーナビであり、電話であり、パソコンであり、辞書であり、カイロにもなる」
「カイロ?」
「ははは、無理に小型化したから排熱効率が悪いんだ」

 どうやらやたら温かくなるようだ。

「テスト送信しよう。何か聞きたいことはあるかい?」

 クリアレッドの携帯電話もどきを渡された。

「いきなり言われても使い方が・・・」
「視覚的にユーザビリティをサポートしてるつもりだから使えると思うよ」
「?」
「ユニバーサルデザイン的というか、そうだなあ・・・車で例えようか」

 何でも出来るコンピュータの最大の欠点は、使える人と使えない人の間に巨大な壁を作ってしまったことだという。
 もちろん、専門家達は素人には分からない専門用語で普通に会話を出来るが、それをマニュアルにしたところでほとんどの人は理解できない。
 通信プロトコルTCP/IPでネットワークを相互に連結した国際通信ネットワークにアクセスするにはまずInternet Protocolがパケットを中継点から次の中継点まで送る必要があるので・・・云々。
 サイバースペースへの侵入をそんな説明ですることはなくなり、「地球に電波の絵が付いてるアイコンをクリックすればインターネットに接続できるよ」で済む。

 例えば、車などはほぼ世界中のどのメーカーの車でもエアコンのスイッチは同じマークだ。
 ハーネスを付け忘れている時のマーク、ハイビームを示すマーク、ハザードランプのマークも一緒。
 軽自動車から500馬力を超す化け物マシンまで共通の絵が付いている。

 細田が言いたいのはそういう事らしい。
 画面上で「アレのことかな?」とイメージを想起させるアイコンやマークで固めてあるから、ぶ厚いマニュアルを読まなくてもいいのだと言う。

「オーケー。それじゃ、聖戦とやらで何を買うんですか?」

 細田が固まった。

「細田クン?」

 女社長も怪訝な顔をして細田を見る。
 ほどなく常人離れした速度でキーボードを叩いて、最後にスライドパッドをタップした。

 今さっき渡された端末がピーンと涼しげな音を立てた。
 メールの着信音らしい。
 画面を見ると、メッセージが届いた旨が表示されていて、そのあたりを指で押していくとメッセージが開いた。
 確かに使いやすいもんだ。

<何を買うのかって聞かれても、エリナさんの前で言えるモノじゃないんだよ。分かったら彼女から見えない方の目で、つまり左目でウィンクして。そうしたらなかなか手に入らない書籍とでも答えるから。オーケー?>

 おいおい。
 この距離で腹芸か。

「鷹城クン」

 仕方がないので細田にウィンクで合図しようとしたら女社長(エリナさんっていうのか?)に呼ばれた。

「知らなかったの? マジケは同人誌の宝庫よ、X指定の」

 細田ががっくりとうなだれた。


(8)に続く

2010/08/27 初版

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