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Doll Master2 〜2人目〜 第5話
飯場正臣

 壁沿いにずらりと並んだマンガを探すフリをしながら、女が入っていったブースにゆっくりと歩いていく。

 目当てのマンガがない。
 そんな風を装っていたが、男は緊張で心臓が高鳴っていた。
 今はカメラで見られているかも知れないのだ。
 通路を歩いている限り、常に誰かに見られている危険性はある。
 思考が読まれる事などなく、バレるはずなどないが、最悪、店員全員に催眠をかけるという事態になりかねない。

 ありもしない最悪の事態を考え、ドキドキした。
 これが所作に現れれば、挙動不審になるのだろう。
 犯罪者がらキョロキョロと周囲を見回したり、声をかけられただけで飛び上がったりと、怪しさ満点なのも今なら分かる気がした。

 ついに女が入ったブースの前まで来た。

 静かに、静かにノックだ。
 動作はさりげなく、伸びでもして腕が当たってしまったような感じで。
 男の緊張感は最高潮に達した。

“さりげなく、さりげなく・・・”

 だが、実際にそうする必要はなくなった。
 さっきの女が仕切りを開けて出てこようとしたのだ。
 手元を見ると分厚いコミックを持っていた。
 マンガを返しに行くところだったのだろう。

 表紙を見るとレディコミだった。

「あ・・・」

 女は少し驚いた顔をしていた。
 出会い頭というだけで、申し訳なさそうな顔をする性格をますます気に入った。

 女と目が合ったので、「すみません」とぶつかりそうになった事を侘びながら、すかさず予備催眠に入る。
 呼吸を整えながら、彼女の視界が“闇夜”になるように、そして、揺らめく暗い明かりしか見えないように。

 あなたの周囲は暗くなってきました。
 目を閉じているようです。
 眠る前のようなリラックスした状態ですよ。
 深呼吸をする必要はありません。
 静かに、いつも通りに息をして。
 どこまでも続く海に浮いているのをイメージして下さい。

 そんな事を繰り返し囁く必要もない。

 精神集中し、あらかじめプリセットしておいたような術を発動するだけ。
 その技術が2冊を読み合わせると体現できるのだ。

 相手に伝える方法は簡単だった。
 プリセットした内容を意識して、相手に息を吹きかけるだけ。

 タバコとコーヒーでひどい口臭だろうが、顔をしかめる前に女はトイレに行きたくなるはずだ。
 別にもよおしているわけでもないのに。

 女の目がとろんとなる。
 曇ったように、心ココにあらずという様子だ。
 やがて、目が泳ぎ出す。

“かかったのか?”

 しかし、女はそのまま会釈して、マンガを返しに行った。
 失敗したか・・・。
 まったく練習していなかったのが敗因か。
 それとも邪な動機がいけなかったのか。

 男には分からなかったが、所在がなくなったので、一応、トイレに向かった。

 少し離れたところにあるトイレのドアを開けると短い通路に出た。
 目の前には男性用と女性用のトイレに繋がるドアが2つ。
 見慣れた光景だ。

 なんとなく、男性用トイレに入って誰もいない事を確かめる。
 人はおらず、個室も空いていた。
 改めて通路に出て、壁に背を預ける。
 本当に所在がなくなった。
 別にトイレに来たいわけでもなかったのだ。

“そうはうまく行かないか・・・”

 株取引も偶然だったのだろう。
 世の中、そうそううまくはいかないものだ。
 ひょっとしたら、本の入手とさっきの取引で一生分の運を使い果たしたかもしれない。

 そんな事を考えていると、ドアを開けて女が入ってきた。


第6話に続く

2012/11/13 初版

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