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Doll Master 3 第1話
飯場 正臣 feat.大和武尊

 午前2時過ぎ。
 深夜のコンビニには誰もいなかった。
 カゴを持って、のろのろと買い物をする男が一人いるだけ。
 いかにもオタクといった風情で、コミュニケーションが苦手な者特有の、半分、挙動不審みたいな動きをしていた。
 この時間、客はほとんどいない。
 男にはそれが分かっていた。
 いても、似たような昼夜が逆転しているような男か、キャバ嬢らしき女性くらいなものだ。
 誰に見られるというわけでもないが、気が楽だった。
 男は他人がたくさんいる場所を苦手としていた。
 やる気のなさそうな店員に会計を済ませてもらい、店を出る。
 男は借りているウィークリーマンションに帰った。
 道にも人はまったく歩いておらず、車道を車が通りすぎるくらいだった。

 男が借りているのは有名なウィークリーマンショングループで、18時には玄関のロックがかかり、受付カウンターは閉じてしまう。
 カードキーの裏に書かれている暗証番号を打ち込んで、ドアロックを開けた。
 ロビーもエレベーターホールも明かりは落とされていて、夜の病院みたいな雰囲気だった。

 部屋にはノートPCと着替えが入っている大きめのリュックだけ。
 買ってきたものはジャンクフードばかりで、そのビニール袋をベッドに放る。
 ツインでも借りない限り、食事をするテーブルなどなく、小さな書き物机にはパソコンが乗っているので置くところがないのだった。

 ウィークリーと謳いながらも1泊から出来るところだが、かれこれ3日は逗留している。
 1つには自宅アパートではしたくない仕事だからだ。
 もう1つは、たまに無駄な金を使うのが「継続的にお金が手元に入ってくるコツ」だと信じているからだった。
 男の仕事はハッカーである。
 ブラック企業に優良企業、研究者に発明家、人探しを請け負った探偵にストーカーまで、顧客はいくらでもいる。
 自分でもひどい時代だと思っていた。

 当初は苦労したものだ。
 匿名掲示板で顧客を募り、捨てアドレス−−適当に作ったフリーアドレス−−で連絡を取る。
 身元を辿られないようネカフェでアカウントを取り、書き込みもそこからする。
 ネカフェ難民という言葉が出てくる前、会員制ではなく、身分証も提示しないネカフェはいくらでもあった時代の話だ。
 今では危険すぎてとても出来ない。
 ネカフェ自体、身元を証明できるものがなければ会員証は作れず、そんなにプライバシーはない。昔ほどアングラな雰囲気もなくなったように思えた。

 それでも狭いブースが落ち着くので、ネカフェを利用することはよくある。
 先月など、腹でも下した者がいたのか異様にトイレの長い奴がいて、すぐに退店したという苦い思いをした。
 漏れそうだったのだ。
 あとから追い抜いてきて、近くのコンビニへダッシュするデブがいたので、あいつもトイレを借りに行くのかと苦笑したものだ。

 数回、大きな仕事を首尾良くこなせば、あとは口コミが付いてくる。
 愚かな者は匿名掲示板どころか、サイトやブログで顧客を募って逮捕されたりしているが、今の男は自分のハンドルネームを検索して、依頼がありそうだと判断したらフリーアドレスで連絡をするスタイルに変更していた。
 これならアシは付かない。

<コロニラ・バレンティナ・バリエガータ>

 南欧に咲く花の名前であり、男のハンドルネームだ。
 検索をかけて、ガーデニングや植物そのものに関する話題に触れていなければ、ハッカーとしての男に用事がある可能性が高い。
 それに謎めいたハンドルネームで、秘密の依頼を受けるという雰囲気に酔っていた。
 まるで映画のようだ。
 とは言え、ハッキングは犯罪だ。
 絶対にミスは犯せない。
 男は用心深かった。


第2話に続く

2015/09/16 初版

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