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Doll Master 3 第6話
飯場 正臣 feat.大和武尊

 あれから8日経った。
 髭は伸び放題、シャワーもあまり浴びてはいなかった。
 食事はネットショップに届けたもらったインスタント食品だけだ。
 思い付いたら、居ても立ってもいられなくなった男は、脳への糖分補給にチョコバーと満腹中枢をごまかすためだけにカップラーメンを箱買いしたのだ。
 ハッキングの仕事はとっくにクライアントへデータを送信して終わらせている。

 一通りのプログラミングを終えた男は、テスト段階に来ていた。
 プログラムに難があってもデバッグは出来ない。
 うまくいかない時は捕まる時かもしれないのだ。
 多少の緊張はあったものの、そんな事はハッカーをやっていれば日常茶飯事だった。
 ハッキングという行為は、男を意外なほど剛胆にしていた。

 テストには相手が必要だ。
 学生時代の憎き相手を探し出す必要があった。

 考えたのはSNSでの身元割り出しである。
 拍子抜けするほど簡単に出てきた。
 個人情報を扱う公的機関を相手に、本気でハッキングを繰り返さなければいけないと思っていたので意外だった。
 忘れたくても忘れられない者の名前で検索したところ、すぐにSNS内で日記を書いていることが分かった。
 もっとも日記自体は3日坊主だったが。
 内容はくだらない自慢めいたものでそこそこリア充になっているらしい。
 リア充というのはネットスラングで“リアルに充実している”の略だ。

 男がSNSに目を付けたのには理由があった。
 学生時代の連絡帳では用を成さない。
 いくつかのSNSは携帯電話と連動していて、本名での登録が必須になっている。
 ネットワークを利用しているということが非常に重要になるのだ。
 計画の根幹とも言えた。

 なぜなら、催眠術の基本効果や刷り込み、暗示などをモニター越しに映す為だ。
 男はPCからプログラムを流し、パソコンや携帯、スマートフォンなどを介して催眠状態にするつもりだった。
 <Doll Master>は、催眠にかかりやすい精神状態について研究し尽くされていた。
 そこで同じような状況にあると脳に錯覚させる信号を中枢に送り込んでしまえばいいと考えたのである。
 電話口で音声データを流すことも考えたが、電話に出なければそれで終わりだ。
 最近では自機のアドレス帳に載っていない番号からの電話を、自動的に切断する機能もある。
 そこで極度の明滅をディスプレイに映し、注視させることで催眠にかかりやすくさせる計画を立てた。
 視覚から受ける刺激が脳に悪影響を及ぼすのは、子供向けのアニメ番組で立証されている。

 催眠術の研究者がまとめたデータに合わせ、催眠がかかりやすくなる精神状態、脳波にする明滅はプログラムした。
 その明滅の中に視認できないほどの速度でメッセージや後暗示催眠のキーワードも織り込めるようにしてある。
 法的に禁止されているサブリミナル効果を植え付けるのだ。
 これは催眠状態などなくとも十分な効果を発揮する危険な技術である。
 例えばコマーシャル・フィルムに0.00数秒間しか表示されない速度で「ハンバーガー」の文字や画像を映し出すと、見ている者はなぜかハンバーガーが食べたくなるという心理作用を及ぼすというものだ。
 催眠と言うよりも洗脳に近いことが可能になるのである。
 <Doll Master>の筆者がまとめたノウハウを、デジタル技術で完全再現できるかどうかは未知数だったが、大した問題とは思えなかった。

 すでに現存する全てのパソコンメーカー、ディスプレイメーカー、携帯電話・スマートフォンメーカーに合わせたシステム介入が出来るようになっている。
 強烈な発光を遮られる可能性はいくらでもある。
 画面にフィルムやシートが貼ってあるだけで効果は減損してしまうのだ。
 そこで、トランス状態に入りやすい映像を流すプログラムも用意した。

「テストするか・・・」

 男は独りごちた。
 髪はボサボサ、髭はさらに伸び、体は汚れていた。

 習慣として、仕事をする前はシャワーを浴びて心身共にさっぱりした状態でキーボードに向かうのだが、この計画に際してはまったく清潔さとは無縁になっていた。
 時間が惜しかったのは確かだ。
 だが、それ以上に“過去の清算”にこだわっていた。
 溜まりに溜まったストレス、陰鬱な記憶をすっきりさせるには、小綺麗な状態ではダメだと思ったのだ。
 不潔な状態こそが今の自分。
 その現状で復讐を成し遂げる。
 自分には必要だと感じていた。

 <Doll Master>を記した研究者は、様々な後悔をしている。
 赤裸々に綴られているのでよく分かった。
 これからどんな復讐をするのかはあまり考えていなかったが、自分もきっと後悔する日が来るのだろうとは思った。
 それでも許せないものは許せない。
 遠い日々、自分にひどい仕打ちをした連中を破滅させてやるのだ。
“家族がいたらどうする? 善良な者から家族を奪うのか?”
 プログラムを組んでいる間、何度も自問自答した。
 ともすれば決意が揺らぎそうになる男は、ノートPCのモニターにメモを貼った。

「苦痛は平等に味わってもらう」

 男の復讐心は確固たるものとなった。


第7話に続く

2015/10/20 初版

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