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Doll Master 3 第62話
飯場 正臣 feat.大和武尊

「けっこう孤独よ」
「え?」
「主人はオーストラリアに2週間の出張」
「そうだったんですか!?」
「昨日からね。先月はドイツ。学会の発表があるとかなんとかで半月いなかったし」
「大学教授ともなると・・・」
「普通の人よ。今回の出張は研究とか関係なくて学閥争いらしいし」
「う〜ん・・・」

 出身校による派閥は学会ではかなり激しいものがある。
 しかも、乗り換えることの出来ないレールだ。
 主張したければ突出し、権威でいたければ保身もする。
 閉鎖社会の悪癖だった。
 それも狭い国内の話であって、英語は当然として、第2外国語の仏語、独語まで駆使して世界に羽ばたく優秀な学者はいくらでもいる。
 そして、国内には帰って来なかったりもする。

「この国のグローバル化はまだまだ先か・・・ある意味では途上国、いや後進国なのかもしれないですね」
「え、そ、そうね・・・」
「あ、すみません。門外漢が余計なことを。つい口に出ちゃって」
「私に話したの?」
「そりゃそうですよ。思わずつぶやいちゃいましたけど、美砂さんといるんですから。旦那さんはきっと優秀だと思いますよ。でもたいへんなんだと思います。英語さえ出来れば、今の時代、世界の名だたる大学がネット受講を認めています」
「ネットで?」
「日本の通信教育とはレベルも大らかさも違うんですよ。メリケンのハーバードや、えげれすのオックスフォードなんかの講義を誰でも受けられるんです。必要なのは実力だけ」
「メリケンて・・・」
「入学をしていないので卒業は出来ませんが、然るべきテストをクリアすれば修了証ももらえます。それに学校側で管理しているフォーラムがあって、そこでの質問は自由。答えてくれるのは世界中の受講生。英語とパソコンは必須だと何十年も前から言われているのに、いまだにそのハードルは下がりません」
「たったそれだけなのにね。私が学生時代にも言われてた」

 男と同い年の美砂にはよく分かった。
 パソコンは世界の距離を縮め、人種や思想など多くの壁を取り払ったが、逆にパソコンを使える人と使えない人という巨大な壁を作ってしまったのだ。
 しかも日本人は日本語以外をあまり得意としていない。
 教育はされるものの、自在に会話できる人は僅かだった。
 さらに壁が高くなっているのだ。

「ですよね。起業を目指す人じゃなくても英語さえ堪能ならMBAを取得して、大手企業で重要なプロジェクトを任されるなんてこともあるので、日本での格差は経済力だけじゃないと思うんですよ」
「・・・」
「既得権益にしがみついている一部の特権階級なんて、もう生きる場所は限られているんです。一部の優秀な人が当然のように知っているシステムを、知らない人が多すぎます。これでは国はフラットにならない。肩書きや年功によるヒエラルキーが存在する以上、奴隷のようにがんばり、国を高度成長させてくれた団塊世代を超えることなどできません。もう誰も奴隷のような生活には耐えられないんですから」
「高度成長期もバブル経済も土地神話もまだまだ根強く復活を望んでいる人は多いんじゃない?」
「個人の見解ですから否定はしません。でも幕藩体制を復活させるより難しいと思いますよ。これからは実力も見識もあり、優れたバランス感覚を持つ人々がフラットな状態で存在できるんです。その上で優劣よりも、適任かどうかで肩書きや責任者が決まる」

 男は考えていることを真剣に披露していた。
 ジェスチュアも交えて。

「理想論ではなくて?」
「丸い地球にあって、世界のほとんどは平らになっていますよ。当てはまらない国や地域はあります。国策がうまくいかない。悪循環しか生まれない貧困で次世代を教育できない。だだっ子のような外交しかできない。過去の過ちにつけ込んでいつまでも金をせびるチンピラみたいな国もね」
「なんとなく・・・頭に浮かぶわ」
「子供の様子は、大人が上から見守り、よく言い聞かせて見本を見せ、諭せばいいんです。先進国は優れているのでは先を行ってるだけなんですからね」
「親にも当てはまりそうね・・・」
「もちろんです。俺はホワイトカラーの話だけをしているんじゃありません。トップもボトムもいらない共産体制にしょうと言っているのでもないですよ。ブルワーカーからデスクワーカーまで、誰もがチャンスを得られる世界があるのに、この国は遅れているって、そう思って・・・」
「思って?」
「す、すみません。つまんない話をべらべらと」
「・・・」
「・・・」
「なんで私が口を挟んでも黙らせなかったの?」

 そもそも彼女はあまり人の話を聞くタイプではないが、会話をしていたのだから、言葉のキャッチボールは当然だと思っていた。
 男は不思議に思った。

「お、俺ばっかしゃべっちゃいましたけど・・・会話なんですから」
「ふ〜ん」
「深蒸しのお茶を汲んできます」


第63話に続く

2017/03/21 初版

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