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百物語 序
鈴鳴零言

 怪談百物語と言うと、まず、霊的な怖い話を思い浮かべるかもしれません。
 ですが、私は必ずしもそうした怪異に限った話である必要は無いと思っています。
 人為的に恐怖感を感じるもの、科学が発達してなお純粋に不思議な話でも一向に構わないし、関連する薀蓄(うんちく)を語っても良いでしょう。
 人によって怖いと思うポイントは違うと思うのです。
 強いて言えば、広義に怖い話に属する話───怪談を百話続け、その独特の雰囲気に心を委ねていただければ良いということが私の信条です。
 それを踏まえたうえでこの百物語に「参加」して頂きたいと思います。

 前置きが長くなりました。
 では、私の怪談を始める際の枕詞を以て始めさせて頂きましょう。

「春と言えば桜。桜と言えば根元に死体」
「夏と言えば天下御免の霊の季節」
「秋と言えばお盆。お盆といえばご先祖様の霊」
「冬と言えば霊的な磁場が安定する季節」

「つまり・・・怪談の季節なのですよ」


一の語りに続く

2010/06/17 初版




▼一の語り / ▼二の語り / ▼三の語り / ▼四の語り / ▼五の語り / ▼六の語り / ▼七の語り / ▼八の語り / ▼九の語り / ▼十の語り

百物語 一の語り
鈴鳴零言

 さて、何から語るとしましょうか・・・。
 ・・・では、まずはこれから。

 ◆ ◇ ◆

 雪山にて、ある5人パーティが遭難しかかっていた。

 小さな山小屋を発見し、退避したときには具合の悪かった1人は亡くなっていた。
 時間は夜中。天候は荒れ模様。少なくとも夜が明けるまでは山小屋に篭もることは決定していた。
 しかし、ひとつ問題があった。
 暖を取るための燃料がなかったのだ。
 倉庫にでも使われていたらしい山小屋は、小屋の手入れはされていたものの、薪などを含め一切の道具は無く、空の小屋だった。
 風雪は防げても、寒さまでは防げず、眠ってしまえば凍死の危険が考えられた。

 4人は相談の上、各人が部屋の四隅に立ち、1人が壁に沿ってもう1人の所に移動するというのを順番に繰り返していくことにした。
 皆でずっと動いていては休むこともできないし、座ってしまってはすぐに睡魔に襲われるほど疲労 していたため、自分の番まで立ったまま小休止を繰り返すことにしたのだ。

 遺体を部屋の中央に安置し、節約の為に明かりを消す。
 暗闇の中、始める合図と共に人の気配が移動する。
 初めのうちは亡くなった仲間を悼む会話や軽口を叩いていたが、そのうち疲労から皆の言葉数が減っていった。

 やがて夜が明け、いつの間にか風雪も治まっていた。
 そしてパーティは無事に下山することが出来た。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・というお話。

 これには後日談があります。
 その時は疲労や寒さで朦朧としていたから気づかなかったそうですが、途中から誰も壁の二辺分を移動することが無かったそうなんです。
 わかりますか?

 ・・・そう。
 4人では部屋の四隅に立って順番に移動していくと、最初の人が2番目の人の所に、次に2番目の人が3番目の人の所に、と進みます。
 これだと4番目の人は最初に歩き出した人の場所に行っても、誰もいないのです。
 誰かが壁を二辺移動しなければ成立しません。

 きっと、亡くなった5人目が一緒に夜を乗り切ってくれたのだ。
 と、そのパーティは語ります。

 ◆ ◇ ◆

 さて、いかがでしたか・・・?
 有名なお話ですので、様々な派生系を知っておられる方も多いかと思います。
 まあ、どれが本家かは分かるものではありませんが・・・。
 私が知っているものでは「美術準備室」「音楽準備室」「理科準備室」「教室」あたりがメジャーでしょうか。
 マイナーなものでは「視聴覚室」や「体育館」というのも噂程度に。

 また、降霊術としての話としても見かけることが多く、また、ゲームの題材に使われていることもあり、怪談で知らなくてもそちらで知っている方も多いでしょう。
 降霊術版の場合、基本条件として、

「4人で行なう」
「部屋を真っ暗にする(暗幕がある部屋・夜の教室等)」

 バリエーションによっては、

「無言で行なう」
「特定の時間に行なう」

 以上がメジャーなところでしょうか。
 もちろん降霊された方にお帰り頂くための方法まで語られている場合もあるわけですが、

「いきなり電気をつける」

 これが私としては一番好きなパターンです。
 豪快すぎます。
 尚、この結果はというと、

「なぜか必ず、終了時は4人が部屋の四隅にいるときになる」
「隅に一瞬、黒い影が見えて消える」

 電気をつける───つまり「5人目が増えた」ときに行なうわけですが、自分の側にいるのがもし影だったら・・・。
 そもそも電気をつけただけでお帰り頂けるのか・・・。

 いずれの場合も降霊術版は語りとしては尻切れになっているか、他の降霊術と複合しているものが多いのが特徴でと言えるしょう。

 では、これにて一の語り「5人目。」了。


二の語りに続く

2010/06/17 初版




▼一の語り / ▼二の語り / ▼三の語り / ▼四の語り / ▼五の語り / ▼六の語り / ▼七の語り / ▼八の語り / ▼九の語り / ▼十の語り

百物語 二の語り
鈴鳴零言

 さて、前の終わりに学校が話に出てきましたので、これにちなんで学校にまつわるものを語るとしましょう。

 ◆ ◇ ◆

 夜中の学校には不思議な魅力がある。
 普段たくさんの人がいる場所に人がいない。
 ただ、それだけのことなのに、非日常めいた空間へと早変わりする。
 一言で言うなら「異界」だろうか・・・。

 文化祭準備の校内宿泊許可。
 こんな時でもなければ夜中の学校に入る機会なんてそうそうない。
 マンガなどでありそうな、忘れ物をして取りにくるなんてのはたいてい夜の時間帯だ。
 それも宿直や警備の人がいる前提でだ。
 無人のセキュリティに任せてあったら素直にあきらめるしかない。

 準備作業を進めて日付が変わり、夜食を食べ、一休み中の雑談でふと「学校の七不思議」の話題が出てきた。
 うちの学校に七不思議、何かあったっけ?───そんな始まりから話題は盛り上がり、食後の散歩に夜中の学校を見て回ることになった。
 別に何がなくても良く、深夜の学校というシチュエーションだけで楽しめそうというものだ。
 いい話のネタになる。

 作業している教室には電気がついているものの、廊下は明かりを落としているので暗く、非常灯がほどよい雰囲気を出している。
 廊下に置かれた文化祭の準備を眺めつつ、目的の場所を目指す。
 場所は「理科室」「音楽室」「美術室」の三つ。
 定番のネタがある場所である。

 ◇ ◇ ◇

 まずは理科室。生物室と言ったほうが正確か。
 借りてきた鍵で扉を開ける。
 もちろん部屋の電気は点けない。代わりに持ってきた懐中電灯を使う。
 棚にある資料が照らされた。
 懐中電灯に照らされるホルマリン漬けの資料。
 白く濁った魚類や、黄ばんだ感じの液体の色合いは、明るいところで見ても微妙だが、暗い部屋で懐中電灯に照らされるとさらに気持ち悪いというか怖いというか・・・。
 これが動くことがあるという。
 理科室の定番のひとつ「動くホルマリン漬け」である。

 ◇ ◇ ◇

 理科室を見回す目の端に人影がよぎる。
 懐中電灯で照らす。
 そこには皮を剥がされ、内臓もあらわになった人間が・・・。
 そう。それは人体模型。
 よく話に出るのは、曰く、初代または先々代の校長が塗り込められている。
 曰く、取り外せる内臓のパーツの一部が無くなっていて、それの代わりを生徒を襲って内臓ををもぎ取り、自身にはめ込む。
 理科室の定番中の定番であろう「生きている人体模型」である。

 ◇ ◇ ◇

 人体模型の隣には無表情に骨格標本がたたずんでいる。
 彷徨う人体模型・彷徨う骨格標本というのもあるが、ここはやはり、特定の年代には有名であろう、ある歌から広まったと思われる「踊る骨格標本」というのを定番として推したいところか。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・というところで、ひとまずここまで。

 七不思議話は三行あれば終わりそうな噂話でもあるため、どこで区切るか悩みましたが、今回は理科室という区切りにしてみました。
 夜中の学校の散歩は次回に続きます。

 では、これにて二の語り「学校の七不思議・視覚編(理科室)」了。


三の語りに続く

2010/07/15 初版




▼一の語り / ▼二の語り / ▼三の語り / ▼四の語り / ▼五の語り / ▼六の語り / ▼七の語り / ▼八の語り / ▼九の語り / ▼十の語り

百物語 三の語り
鈴鳴零言

 さて、今回は「二の語り」の続きから始まります。

 ◆ ◇ ◆

 理科室に続いてやってきたのは音楽室。
 まずはお約束ということで教室の前で耳を澄ましてみる。
 ・・・特に何も聞こえない。
 誰もいない音楽室からピアノの音色が・・・そんな音楽室の二大定番のひとつはないようだ。
 鍵を開け、音楽室内を懐中電灯が照らす。
 歴史に名を残す音楽家達の肖像画に光が当たる。
 場所を確認すると明かりを消す。
 目が光っている───!!
 というか目線が入っている、と言った方がいいか。
 真っ暗というわけでもないので、うまく反射しているのだろう。
 良いオチがついたことに満足し、次を目指す。
 目が光ったり、動いたりする「音楽家の肖像画」。音楽室の二大定番のもうひとつだ。

 ◇ ◇ ◇

 最後にやってきたのは美術室。
 「目の動く石膏像・肖像画」が定番だろうか。
 懐中電灯で照らす先に石膏像の胸像が三つ置いてあった。
 普段は準備室にしまわれているはずだが、授業で使ったまま放置されているようだ。
 ちなみにここは肖像画は置いていない。

 不意に「何をしてるんだ?」の声。
 声にならない悲鳴とよく分からない奇声をあげて全員が驚く。
 ちょうど全員が石膏像に注目していたため、入り口が死角になっていた。
 電気が点けられる。教師だった。

 理由を話し、呆れられる。
 ハメを外しすぎるなと一言注意を受け、罰として石膏像を準備室に戻しておくように言われた。
 石膏像を戻しに来たところに出会ったらしい。
 話のわかる先生で良かったと話しつつ、石膏像を準備室に運ぶ。
 長々と説教をされたらたまったものではない。

 三つの胸像を運び入れ、一人が思い出したようにひとつの絵画に目を向ける。
 石膏を置いた低い棚がある壁面に、大きな絵画が架かっている。
 中年女性が布に包まれた赤子を抱いている絵だ。
 聖母マリアが赤子を抱いている絵のような感じの服装と構図であるが、絵から受ける印象は暗い。
 そして何より赤子の顔が黒く塗りつぶされたように描かれているのがひどく不気味だ。

 鍵を閉めるぞ、との声に返事をして準備室を出る。
 ふと、誰かいたような気がして振り返るが誰もいない。
 自分が最後なのだから当たり前だ。雰囲気に当てられたのだと納得した。

 生徒は気づかなかった。
 並んでいた胸像のひとつがなくなっていることに。
 生徒は気づかなかった。
 絵画の女性が抱える赤子の顔が、石膏像の顔になっていたことに・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、夜中の学校の散歩でした。

 区切りの扱いは共に、絵画や肖像画の目に関わる話が多いところから。
 絵の話でよく話にでてくるのは「モナリザ」でしょうか。
 やはりよく目が動きます。

 「モナリザ」の絵で独自のものと言えば、「モナリザ」はどこから見ても視線が合うという絵ですが、逆にどうしても視線が合わない「モナリザ」という話が出てきたりします。
 また、時間によって視線の先が違うというもの。
 魂を込められて描かれた絵画は、複写であっても影響されるようです。

 では、これにて三の語り「学校の七不思議・視覚編(音楽室・美術室)」了。


四の語りに続く

2010/07/16 初版




▼一の語り / ▼二の語り / ▼三の語り / ▼四の語り / ▼五の語り / ▼六の語り / ▼七の語り / ▼八の語り / ▼九の語り / ▼十の語り

百物語 四の語り
鈴鳴零言

 さて、学校にまつわるものはまだ続きます。

 ◆ ◇ ◆

 放課後、体育館にボールの音が響いている。
 一定のリズムを刻み、時折止まり、そしておそらくゴールを揺らす音。
 バスケットボールだろう。他の球技ではちょっと思い当たるものがない。
 なんとなく興味を惹かれて覗いてみる。

 体育館には誰もいなかった───。

 そういえば試験期間中の部活は無しということを聞いたばかりだった。
 誰か自主練でもしていたのだろうか?
 それはともかく、覗き込む直前までボールの音がしていたはず・・・。
 館内を見渡して見るが、誰か隠れている様子もない。
 ふと、体育館の隅、影になっているところに目がいった。
 そこにはバスケットボールが忘れられたように転がっていた・・・。

 ◇ ◇ ◇

 宿直の教師がその音に気づいたのは夜もだいぶ遅くなってからだった。
 校内の定時巡回で各所を見回り、プールの近くに来たときバシャバシャといった水音が聞こえたのである。
 今は夏休みに入り、昼間のプール日もあるためプールには水が張ってある。
 夏も真っ盛り、誰かこの暑さでプールに忍び込もうとでも言い出したのだろうか。
 自分達の年代ならともかく、今時めずらしい悪ガキがいたもんだ、などと少々ズレた感想を教師は持った。
 とにかく事故を起こす前に注意して帰ってもらわなければならない。

 鍵を開き、教師はプールサイドまで急いでやってきた。
 プールに照明設備はなく、校舎や付近の街灯の明かりがかろうじて届いているだけだ。
 誰かいるのか?───声をかけつつ懐中電灯で照らす。
 プールサイドには誰もいない。
 潜っているのか?───プール内をくまなく照らすが潜っている様子もない。
 しばらく辺りを見回ったが見当たらないので、隠れているなら事故を起こす前に帰れよ、と警告して教師は戻ることにした。
 古くから勤めている教師にこのことを聞くと夏の時期に限らず、たまにあるのだという・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 このような音にまつわる話も七不思議の定番です。
 体育館のボール音の派生系としては「バレーボール」「テニスコート」などでしょうか。

 音にまつわる話のマイナーどころでは、陸上部の生徒が自主練をしていて、競技場のトラックを走っていると後ろから足音がついてくる、なんてのもあります。

 これらの話は、試合前に不慮の事故で亡くなった、というシチュエーションの派生系も多くみられます。
 次の語りはそのシチュエーションとしてもっとも有名なパターンと思われるお話を。
 それにしても語っているとものすごく時代を感じます。
 時代が昭和中期〜後期始めぐらいでしょうか。

 では、これにて四の語り「学校の七不思議・聴覚編(運動場)」了。


五の語りに続く

2010/07/17 初版




▼一の語り / ▼二の語り / ▼三の語り / ▼四の語り / ▼五の語り / ▼六の語り / ▼七の語り / ▼八の語り / ▼九の語り / ▼十の語り

百物語 五の語り
鈴鳴零言

 さて、前回の語りの予告通り、このお話を・・・。

 ◆ ◇ ◆

 放課後。
 音楽室にピアノの調べが響いていた───。

 下校時刻を大幅に過ぎ、太陽が沈みかける頃になって、ずっと鳴り響いていた調べが止まる。
 弾いていた少女は夕日に目を細めると時計を確認した。
 時間に気づき、あわてて片付けを済ませて音楽室を出て行く。
 弾くのに没頭して時間に気づかなかったようだ。
 少女はピアノのコンクールに出場するということで、放課後、音楽室を借りて一生懸命に練習を続けていた。

 そしてコンクールの前日。
 練習に熱が入りすぎ、帰りがすっかり遅くなってしまった。
 暗くなった帰り道。急ぎ足の中、ふと空を見上げると月が懸かっていた。
 その時、不幸は訪れた。
 横道から強烈に照らされる光。
 少女は突然のことに硬直し、そのまま宙を舞った。

 余所見か、酒気帯びか───ともかく少女は暴走車にはねられた。
 そして病院に運び込まれるも、治療の甲斐なくそのまま息を引き取った。

 皆に悼まれ、1ヶ月が過ぎたあたりからある噂が流れ始めた。
 曰く、放課後遅くに音楽室でピアノを弾いている者がいる。

 最初は生徒会の用事で遅くなった生徒だった。
 音楽室の前を通りかかるとピアノの音が聞こえた気がした。
 音楽室は防音されているため、ほとんど音は漏れてこない。
 耳を済ませると確かにピアノの音が聞こえる。
 まだ誰かいたのかと扉を開ける。
 ───しかし、扉を開けるとそこには誰も居らず、ピアノが鳴ってもいなかった。

 次は下校時刻を過ぎて教室を見回る教師だった。
 例の事故のこともあり、下校時刻近くになると見回るようになったのだ。
 音楽室の前を通りかかるとピアノの音が聞こえた気がした。
 先程、見たときは誰もいなかったが、誰か来たのだろうか。
 とにかく下校を促すべく扉を開けた。
 ───しかし、生徒の時と同じくそこには誰も居らず、もちろんピアノも鳴っていなかった。

 そんなことが何度か続き、噂はひとつの形で定着する。
 曰く、弾いているのは少女の霊である。
 曰く、聞こえるのは夜になると綺麗な月が見える日である。
 曰く、聞こえる曲は「月光」である・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・というお話。

 三の語りにてさらりとでてきましたが、音楽室での七不思議「ひとりでに鳴るピアノ」です。
 バリエーションによっては、

「ピアノが鳴る時間帯」
「現象に出会う生徒の所属(委員会・部活等)」
「少女の弾いていた曲」
「場所が音楽室ではなく体育館」
「ピアノではなくオルガン」

 ・・・などがあります。
 また、少女は事故で亡くなったのではなく、事故で指を怪我してしまい、ピアノを続けられなくなったことに絶望して自殺してしまう、そんな派生系もあります。
 いずれの場合も物悲しいお話の仕立てが特徴でしょうか。

 では、これにて五の語り「学校の七不思議・聴覚編(音楽室)」了。


六の語りに続く

2010/07/19 初版




▼一の語り / ▼二の語り / ▼三の語り / ▼四の語り / ▼五の語り / ▼六の語り / ▼七の語り / ▼八の語り / ▼九の語り / ▼十の語り

百物語 六の語り
鈴鳴零言

 さて、今回は部屋と部屋をつなぐ場所。通路にまつわるものを・・・。

 ◆ ◇ ◆

 夏休み。
 昼間の学校の廊下は暑かった───。

 一階はまだよかった。
 扉や廊下の窓が解放されているので多少なりとも風の通りがあったし、鍵を借りに寄った、同じ階にある職員室では空調が効いていた。
 そして目的の場所である三階まで来たところ、歓迎してくれたのはこれでもかと言わんばかりの暑さだった。
 比喩的表現ではなく、文字通り眩暈を覚える。
 上層階のため熱気が昇ってきており、そして廊下の窓は開いておらず、人がいないため空調を使用している教室もない。
 陽炎でも立っていてもおかしくない状況にうんざりしながら、さっさと用事を片づけることにする。
 先日、部活に訪れたときに忘れ物をしたことに気づいたのだ。

 廊下を歩きながら、何気なく廊下の天井に這わされた空調のパイプを恨めしく睨みつける。
 表面にアルミホイルを巻いたような、太い銀色のパイプが意味も無く勘に障る。
 新しく造られたところなら違うのだろうが、ここの空調は後付けだ。もちろん廊下に空調はついていない。
 それだけ年期の入った古い校舎ということでもある。
 そして古い時代の校舎にありがちだが、廊下の一辺が非常に長い。1学年が9クラスとかある時代の名残だ。
 さらにこの校舎は大雑把に「コ」の字型をしているのだが、目的の教室は廊下の終端にある。
 階段を昇ってきたところからは廊下を二辺、まるまる移動しなければならなかった。

 廊下の角に来たところでもう一つの階段に首を向ける。
 来るときは職員室に近い階段を使ったのだが、この暑さは予想していなかった。
 帰りはこっちを使おう───そう決めつつ角を曲がった。
 そして───。

 前を見て混乱した。
 知らない廊下だった───いや、正確には見たことがある廊下ではあった。
 弾かれたように、今歩いてきた廊下に振り向く。
 知っている廊下だ───そしてゆっくりと前を向く。
 先程と変わらず、そこには知らないが見知っている廊下が続いていた。
 その廊下は、見る限り今歩いてきた廊下と同じ。
 付け加えると反対側の端───歩き始めた場所から見たときの廊下が続いている。
 迷った末にとりあえず端まで行ってみることにした。
 もしかしたら同じに見えてるだけで、いつもどおりの廊下なのかもしれない───。

 廊下の半ば程まで歩き、やはり見間違えではないことが確信できてしまった。
 本来、こちらの廊下は通称「中央廊下」と呼ばれている廊下よりも短く、3分の2程しかないはずなのだ。
 この暑さで蜃気楼(?)か何かで廊下が長く見えているだけと思っていたのだが・・・。
 それに並ぶ教室も中央廊下にある教室だ。

 端に着く手前で、あることに気づいてしまった。
 曲がり角がある───。
 足が止まっていたことに気づき、意を決して近づき、そして覗き込んだ。
 見知っている廊下が続いていた───。

 壁に寄りかかり一休みすることにした。わけが分からない。
 思い出したように暑さが襲ってくる。
 少しでも涼を取ろうと近くの窓を開けた───が、風は入ってこなかった。
 あきらめて日陰にしゃがみこむ。
 静かだ───ぼんやりと思った。
 ふと、気づいた。静か過ぎる。
 あわてて窓から外を見る。
 見えるところに人影は無い。
 何も変わらない景色のようだが、あれだけうるさく鳴いていた蝉の声が無かった。
 急に恐怖を覚えて、とにかく一階に下りることにした。
 そこでもう一つ気づくことになる。

 階段が無い───。

 普段通りの感覚で階段がある場所へ目を向けて気づいた。
 なぜ今まで気づかなかったのか、そこには壁が拡がるだけだった。
 ここがいつもの廊下ではなかったことを思い出し、元の廊下へと駆け出す。
 一気に廊下を駆け抜け、先程、階段を見た場所にたどり着くと呆然としてしまった。
 先程、見た階段が無かった。
 あわてて周囲を見渡し、それに気づいた。
 窓が開いている───。

 あとは無我夢中で走った。
 何度目の廊下だろうか。疲れ果てて近くの教室に入った。
 教室の窓から外を見るがやはり人影は無い。
 窓を開ける気にはなれず、椅子に座り込む。
 疲労から意識が遠のいた・・・。

 教師に揺り起こされ、気づいた。
 なかなか戻ってこないので様子を見にきたそうだ。
 暑さで気分が悪くなったと言っておいた。
 あれは話しても信用されないだろう。
 それに───自分でも幻覚だったと思うような出来事だった・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 廊下は学校という独特の造りのせいでしょうか。  廊下の端から端までの一辺が長いため、どこまでも続くという印象が伝わりやすいのかもしれません。
 派生系としては「病院」が挙がります。
 やはり似たように廊下の一辺が長い場所です。
 あとは廃屋であることもありますが、やはり廊下の都合か「廃病院」か「廃学校」であることがほとんどのようです。
 また、時間の進みが一瞬であったり、逆に数分のつもりが数時間経っていたりといった派生もみられます。
 日常の中に現れる時空の歪み。
 もしあなたが巻き込まれたらどんな行動を取るでしょうか・・・?

 では、これにて六の語り「学校の七不思議・時空編(廊下)」了。


七の語りに続く

2010/07/27 初版




▼一の語り / ▼二の語り / ▼三の語り / ▼四の語り / ▼五の語り / ▼六の語り / ▼七の語り / ▼八の語り / ▼九の語り / ▼十の語り

百物語 七の語り
鈴鳴零言

 さて、今回も通路について語ります。

 ◆ ◇ ◆

 うちの学校には階段の踊り場に大きな鏡が設えてある。
 高さが2メートル弱、幅が1メートルと少し。
 姿見にしては大きいほうだろう。
 鏡の正面に立たず、自分の姿が映らないようにすると、薄暗いこともあって向こう側に空間が広がっているように見える。
 そんな鏡だけに、いわゆる七不思議の噂はついてまわっている。

 曰く、ある時間に一人で覗き込んでいると、鏡の向こう側に吸い込まれてしまう───のだそうだ。

 それだけならよくある話で済ましてしまうのだが、三人ほど実際にいなくなっているらしい。
 聞くところによると、

「よく姿見として使っていた女生徒」
「踊り場で遊んでいた男子生徒の一人」
「放課後の見回り中だった教師」

 とのことだった。
 信憑性を上げるために後付けされたのか、関連付けされたのかは知らないが興味深いところだ。

 ───そろそろ噂の時間だ。

 これから覗き込みに行ってみようと思う。
 もし、噂が本当だったときのことを考えて、このノートを残していこうと思う。
 オカルトなんか信じてくれないだろうが参考にはなるだろう。
 では、行ってくる・・・。

 ◇ ◇ ◇

 ねぇねぇ、知ってる〜?
 ○○の階段って普段は12段なんだけど、ある時間になると13段になるんだって。

 なにそれ・・・?
 数え間違いとかじゃなくって?

 ちがうよ〜。
 それでね、そのときに階段を上がっちゃうと、ものすごく怖い目に遭うんだって。

 わたしも聞いたー。
 わたしはね、時間についていくつか聞いたよー。
 えーとね、放課後だと四時四十四分か、五時五十五分でねー。
 夜中だと夜中の十二時か、二時二十二分だってー。

 ああ、よくある学校の七不思議ね。
 ・・・ふたりとも面白そうだからって見に行っちゃ駄目よ。

 え〜、なんで〜?
 いっしょにいこうよ〜。

 あのねぇ・・・。
 いい? 夕方の時間だと多分、太陽が沈む頃だと思うけど、それぐらいの時間は太陽に目が眩みやすいから事故が起きやすいの。

 あー、しってるー。
 昔は夕方は相手がよく見えないからおばけに出会う時間って言っていたんだよねー。

 逢魔が刻ね。
 えっと、なんだったかしら・・・そうそう、事故が起きやすいの。
 それと噂の階段はあまり掃除されてなくて換気も悪いから、ホコリっぽくて滑りやすいし、事故の確率を上げるだけよ。
 それにね・・・。
 こういうのは噂で聞いてるからおもしろいの。
 そこに行って何もなかったらつまらなくて、何かあったら・・・怖いのはイヤでしょ?

 それもそうだね〜。
 ねぇねぇ、知ってる〜?───。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 怪異に出会うには時間の条件が割と必須ですが、特にゾロ目の時間は定番です。

 踊り場の鏡は、鏡の向こう側の世界があり、行き来の出来る時間が決まっているという派生系があります。
 その時間は二時二十二分と五時五十五分であり、入った時間とは別の時間に出なければいけないという場合もあります。
 鏡の世界という概念からか、デジタル時計を鏡に映して普通に読める時間というのが特徴でしょうか。
 そのため午前零時が出入りの時間になっている場合もあります。

 13階段の現象に出会ってしまった場合、絞首台の実話(?)から、14段目に上れることが出来ると助かるといいます。
 また、13階段の話は「学校の七不思議」の他に、公園に関する話にもよく出てきます。
 特に城址公園のようなところにある演説台のような13階段(段数は13段とは限らない)は、実際に絞首台の跡であり、台に上って下を覗き込むと「首」にまつわる事故に巻き込まれることがよくあるそうなのでご注意を・・・。

 では、これにて七の語り「学校の七不思議・時空編(階段)」了。


八の語りに続く

2010/07/28 初版




▼一の語り / ▼二の語り / ▼三の語り / ▼四の語り / ▼五の語り / ▼六の語り / ▼七の語り / ▼八の語り / ▼九の語り / ▼十の語り

百物語 八の語り
鈴鳴零言

 さて、再びある教室に話は戻ります。

 ◆ ◇ ◆

 この学校の図書室はかなりの蔵書を誇っている。
 もはや図書館と言った方が正しいかも知れない。
 元々、蔵書は多種に亘っていたのだが、常連だった生徒が卒業時に本を寄贈することで徐々にその数を増やし、その豊富さに拍車をかけた。
 現在では図書室の増改築をするにまで至っている。
 そんな図書室だけに、七不思議の噂があるのは当たり前なのかも知れない。

 曰く、図書室を閉めた後に作業を行なっていた図書委員が謎の人影を見た。
 曰く、書架の一つが動き、隠し部屋が存在する。
 曰く、見えない誰かが本を持っているかのように、本が宙に浮いていた。

 他にもどこかで聞いたような話がいくつかアレンジされて伝わっていた。
 もっとも図書室だけで複数の噂があるため、

「噂の一つが本物である」
「学校の七不思議の一つは『七不思議のある図書室』である」

 などと言われている。

 ある放課後、図書委員の女生徒が倉庫にて作業を行なっていた。
 膨大とも言える、未分類の寄贈本の整理である。
 大変な作業ではあるが、表の書架にまだ出していないものや、並べるには適していないと判断されて保管されているものもあるため、裏の書架を覗けるのは図書委員ならではの特権だった。
 そんな事もあり、ここでは例外なく「本好き=図書委員」が成り立っている。

 ───これで全巻揃ってる───これは初版───あ、これおもしろそう───。
 ───これは帯出禁止・・・かな?───わ、本物だ。はじめて見た───。

 いろんな本が雑多にあるため、古書店巡りで掘り出し物を見つけた楽しさがたびたび味わえる。
 そんな時間を忘れる作業を続けて───下校時刻を知らせるチャイムが鳴った。

 帰り支度を終えて、ふと一冊の本が目に入った。
 ハードカバーでしっかりした装丁の本だが、タイトルは書かれていない。
 気になって手に取る。中を開いて理解した。
 日記だ───。

 ───下校のチャイムの本鈴が鳴った。

 あわてて日記を置くと女生徒は倉庫を出た。

 数日後、女生徒は再び倉庫の担当になった。
 作業の途中で不意に日記のことを思い出した。
 先日は日記だとは理解したが、開いたところが白紙のページだったため、中身を確認していない。
 何か書かれているのだろうか───そんな好奇心が頭をもたげてきた。

 確かこの辺に───書架を眺めて記憶をたどる。
 幸い移動されておらず、戻したままのところに日記はあった。
 手に取って気づいた。
 新古品だろうか───それなりの古さはあるものの、ページの痛み具合からみると、あまり使われた様子はない。
 1ページ目を開いてみる。
 タイトルや通し番号といった欄は空白だった。
 人の日記を覗き見るという罪悪感と背徳感のドキドキが少し薄れる。
 三日坊主だったりして───次のページをめくったがそこにも何も書かれていなかった。
 本当に新古品だったようだ。
 まあ、書いてたらうっかりでもないかぎり寄贈しないよね───パラパラと一応ページをめくっていくうちに何かが落ちた。
 見ると、少々くすんでいるが、エンボス仕上げの綺麗なしおりだった。
 少し考えて手持ちの文庫に挟み、整理作業に戻った。

 その日は返却された本を書架に戻す作業を行なっていた。
 立ち並んだ書架は本の森といった印象を抱かせる。
 これは・・・一番奥の棚か───書架を曲がって足が止まった。

 ───え? え!?

 奥の書架は5メートル程で行き止まりの壁のはず。
 それが書架が遥か向こう───端がわからないほど向こうまで続いていた───。

 この学校の七不思議にまつわる場所の一つに図書室がある。
 その噂とは、

 曰く、図書室を閉めた後に作業を行なっていた図書委員が謎の人影を見た。
 曰く、書架の一つが動き、隠し部屋が存在する。
 曰く、見えない誰かが本を持っているように、本が宙に浮いていた。
    :
    :
 曰く、この学校の図書室には遥か彼方まで続く書架がある。そこに行くには「あるもの」を手に入れなければならない。

 と・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 ある意味、六の語りの派生系です。
 あちらが「無限廊下」と言うのであれば、こちらは「無限書架」になります。
 七の語りの鏡のように、向こうに行ってしまうと戻ってこれるかわからない類の話です。

 今回のキーアイテムは「しおり」ですが、派生系によっては「ある本」だったり、本に挟まれた「恋文」だったりすることもあれば、もちろんアイテムが無い場合もあります。
 七不思議としてはマイナーな類だと思いますが、時間を越える話の題材となっていたりと、むしろ小説の元ネタになっていることで見かけています。探して見るのも一興でしょう。

 では、これにて八の語り「学校の七不思議・時空編(図書室)」了。


九の語りに続く

2010/07/29 初版




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百物語 九の語り
鈴鳴零言

 さて、今回は短編ものをお送りします。

 ◆ ◇ ◆

 学校にはいたるところに染みがある。
 校舎が傷み、鉄筋コンクリートにひびが入って雨水が浸入したであろうものや、配管の湿気によると思われるものなど、さまざまである。

 その染みの一つに、人影の形をしているものがある。
 染みは白く浮き出ていて、ペンキを塗り直してもいつのまにか再び浮き出ている。
 それだけなら偶然で済まされるだろう。

 その染みがある場所近くで、たびたび白い人影が目撃されることを除けば・・・。

 ◇ ◇ ◇

 学校には焼却炉がある。
 小さなものならそれほど心配する必要はないだろう。
 しかし注意するに越したことは無い。
 子供が隠れていて眠ってしまっていることもあるのだから───。

 ある焼却炉では、雨の日、薄く黒い人影が立っていることを見かけることがあるという・・・。

 ◇ ◇ ◇

 学校の玄関の一つに、職員用・来客用の玄関がある。
 そこには受付を兼ねた事務室が有り、そして受付の窓口には赤電話が置かれている。
 その赤電話には一つの噂があった。

 赤電話の前を通りかかると、電話が鳴ることがある、と。

 その電話を取ると大概は無言電話なのだそうだが、まれに何を喋っているのか分からない、ぼそぼそとした呟きが聞こえることがあるのだという。
 それだけなら悪戯電話で済むのだが、噂になるだけの理由は別にある。

 赤電話の前を通りかかるとき、電話へ振り向かせる位置で「計ったように」呼び出し音が鳴るのだ・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 人影の染みの話はメジャーな部類だと思います。
 派生系は主に「学校」か「ビル」で、

「建築時に人がいなくなった」
「夏休みの改築中に人がいなくなった」

 など、壁や柱の中に人が埋まっているという話です。

 焼却炉は、いわゆる隠れているところに火が点けられて───というお話。
 今ではダイオキシン関連などで設置されていなかったり、使われることがなくなったりしているでしょう。

 最後の赤電話は携帯電話が無い時代、学校から家などへの連絡用に、赤電話や肌色電話が設置されていたりしました。基本的に自腹です。
 テレホンカードが使える緑電話が出てきても、学校などの備品はめったに交換されないのでかなり長く残っていたのではないでしょうか。

 では、これにて九の語り「学校の七不思議・地域編(短編)」了。


十の語りに続く

2010/07/30 初版




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鈴鳴零言

 さて、前回に引き続き、短編物を続けさせていただきます。

 ◆ ◇ ◆

 学校の敷地内に銅像が建っているところも少なくないだろう。
 それは二宮金次郎であったり、考える人であったり、初代校長などの胸像であったりとさまざまだ。
 だが、それらをじっくり観察したことはあるだろうか?

 二宮金次郎は、夜になると台座から降りて、歩き回り───、

 考える人は、足を組みかえたり、あごに突く手を変え───、

 胸像は、近くにいる人に首を向けている───。

 よく観察していれば、それらの痕跡が見つかることがあるかもしれない・・・。

 ◇ ◇ ◇

 紫部屋というものがある───。
 七不思議らしい七不思議がない学校にも、一つの噂は伝わっていた。

 場所は移動教室で使われる宿泊施設の一つ。
 純粋に「学校の怪談」とは言えないかも知れないが、この学校が移動教室に使うのはそこを含めた三ヶ所の施設いずれかであり、学校の飛び地として考えるなら問題無いだろう。
 閑話休題───。

 その紫部屋の噂は、こう伝えられていた。

 曰く、その部屋の中には何もなく、床も壁も天井も紫色である。
 曰く、夜中、ある壁に触れると、壁に吸い込まれてその部屋に行ってしまう。

 ・・・という、不思議話としては割と普通な話ではあった。

 ある生徒がその施設で妙な体験をする。
 二段ベッドのはしごに腰掛けてくつろいでいると、ふと、服にペンキが付いていることに気づいた。生乾きのところを擦ってついたような感じだった。
 ペンキの元を探すと、どうやらはしごの接合部だ。
 錆止めに使われる下地のペンキだろうか・・・?
 それにしても───ペンキの色が赤錆色が混じったような「赤紫色」というのは何かの符号なのだろうか・・・。

 ◇ ◇ ◇

 ある学校のトイレには鏡が無い。
 正確には、元々は付いていたのだがある理由により取り外してしまったのだ。

 トイレを使用した生徒や教師は、こう証言した。

「鏡を見ると、自分の後ろに頭から血を流した男が立っていて、振り向いても誰もいないが、再び鏡を見るとやはり立っていた」
「誰もいないのに、鏡には階級の低い兵隊のような格好をした男が歩いているのが映っていた」
「気づくと鏡が血に濡れていた」

 そんなことがたびたび続けば、さすがに学校としても対応せねばならなくなり、鏡を取り外す運びとなったのである。
 ちなみにこの学校の敷地、戦時中は軍関係の施設が建っていたとのことである・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 語りの解説に入る前に、一つ説明を。
 前回より地域編というカテゴリーにしていますが、これは私が知っているかぎりで、

「あまり全国的ではなく、地方・地域がそこそこ限定されているもの」
「実際にあった事件・事故を基に広まっていったと思われるもの」

 といった条件を基準にしています。
 ある地域ではメジャーだけど、全国的にはマイナーな七不思議という感じでしょうか。
 とはいえ、七不思議や都市伝説は流行り・廃りなので、いつのまにかメジャーになっていたり、そのまた逆も然りではあります。
 では、解説です。

 銅像は理科室の人体模型や美術室の人物画や胸像、音楽室の人物画の派生系と言えます。
 目が光る程度のみということはなく、大概はよく動く話の仕立てが多いようです。

 紫部屋は部屋の味付けを除けば、鏡や壁に吸い込まれてしまうといった、時空の歪みの話の仕立てとしてはポピュラーなものです。
 そしてポピュラーなだけに、というべきか、吸い込まれてしまった場合の部分が曖昧です。

 最後は鏡の話。
 その必要が無いのに、なぜか鏡を取り外した跡が残っている場所、また変な位置に取り付けてある場所、というのは意外にあるものです。
 そういった場所は霊的にも、人為的にもご注意を・・・。

 では、これにて十の語り「学校の七不思議・地域編(短編2)」了。


十一の語りに続く

2010/08/01 初版

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