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百物語 六十一の語り
鈴鳴零言

 さて、これは今となっては見かけなくなりましたが、往年の定番にある派生系の一つです。

 ◆ ◇ ◆

 ある、安アパートに住んでいた男性がいた。
 毎日、朝に仕事に出かけ、仕事から帰ってくる時間は大体23時頃。
 その後、風呂と食事を済ませると寝る、といった生活をしていた。

 ある日のこと───。
 いつも通りに寝ようとしたところ、不意に───ジリリリリン───と電話が鳴りだした。
 電話が鳴りだした、といっても自分の部屋ではない。壁の向こう側───隣の部屋からだ。
 今までたまたま気づく機会がなかったが、安アパートだけに、よく聞こえる───そんな感想を持った。

 ジリリリリン───ジリリリリン───ジリリリリン───。

 隣は留守なのだろうか。
 電話に出る気配も無いが、電話が鳴り止む様子も無い。
 ───電気を消して床に就き、しばらくしたところで電話は鳴り止んだ。
 数分は鳴り続けていただろうか。
 余程、急ぎの連絡だったのだろうか?───などと考えているうちに、眠りについていた。

 次の日───。
 また、同じような時間に電話が鳴りだした。
 そして前日同様に鳴り続け、しばらくしてぱたりと鳴り止む。

 さらに次の日───。また次の日───。
 これが一週間も続くと、さすがに耳障りになっていた。
 しかも、最初は気づかなかったが、毎日少しずつ鳴っている時間が長くなっている。

 ジリリリリン───ジリリリリン───ジリリリリン───。
 ジリリリリン───ジリリリリン───ジリリリリン───。

 ドンドンッ!

 不意に玄関の扉が叩かれ、ハッとする。
 出ると、不機嫌そうな顔をした男性が立っていた。

「隣の者だが、いいかげん電話に出てくれないか? 毎日、うるさくて敵わない」

 予想外の言葉に驚いたものの、自分のところではないことを伝えた。
 隣の住人は一瞬、眉を顰めたが、部屋から電話の音がしていないことに気づいたようだった。
 電話が鳴り止んだわけではない。
 だが、部屋の中で電話が鳴っていないことは分かる。

 不意に電話が鳴り止んだ───。

 その後、二人は電話について話し合った。
 どうやら、それぞれの部屋の間───壁の中から電話が鳴っているらしい。

 後日───。
 不動産と大家が立会いの下、壁を壊して確認することになった。
 壁を壊すと、中から一台の黒電話が見えてきた。

 ジリリリリン───ジリリリリン───ジリリリリン───。

 不意に電話が鳴りだした。
 その場の皆が顔を合わせる。
 恐る恐る電話を取った。

「───もしもし・・・?」
『・・・やっと出たか───』

 そう言って、ガチャリと電話は切れてしまった。

 ───とにかく電話を壁の中から取り出すことにする。
 そこで皆が見たものは、途中で線が途切れている電話だった・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 線が途切れているのに、鳴り出す電話。
 実際に出遭ったら、とても怖いのではないでしょうか。

 線が途切れた電話のお話は「廃ホテル」「廃病院」などの派生系も見られます。
 そもそも、廃墟の電話が鳴り出すだけでもおかしいわけですが・・・。

 他には「機動隊の宿舎か隊舎に設置されている、今は使われていない電話が鳴り出す」なんてお話もあります。

 黒電話の呼び出し音は耳に響くので、今の電子音の呼び出しとは違った風情───とでも言うのでしょうか、独特の怖さを伴っていると思います。

 では、これにて六十一の語り「壁の中の黒電話」了。


六十二の語りに続く

2010/10/22 初版




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百物語 六十二の語り
鈴鳴零言

 さて、これは電話にまつわる有名なお話です。

 ◆ ◇ ◆

 ある日のこと───。
 友人達で、噂の廃病院探索に行こう、という話が持ち上がった。
 その廃病院は、廃業した際に機材や資料を処分せず、そのままになっているのだという。
 実際に行ってきた者もおり───噂の通りだった───と話していたのを見かけている。
 ───週末に行く、ということで決定した。

 そして週末───。
 夕方を待って皆が集まる。
 廃病院に侵入するころには、ほどよく暗くなっているだろう。
 いろいろな期待感と共に廃病院に向かった。

 ある意味、廃病院は噂以上の状態だった。
 噂を聞きつけて侵入した者達がいるからだろう。荒れ放題だった。
 もっとも、そのおかげで侵入ポイントが確保されているというのはあった。

 雑多なゴミの山がところどころにある待合ロビー跡───。
 ボロボロになったベッドの残る病室───。
 それぞれの機材が残された診察室───。

 下調べ的に各所の噂を聞いてはいたが、実際に見てみると、その怖さ───不気味さは一段と増していた。
 特に手術室では、使用後の注射針などが箱にまとめられて積んであったが、誰かが引っ張り出したのか、幾つか床にバラ撒かれていた。
 遊び半分で行くと怪我をする───と言われている意味がよく分かる。
 これでは、浮かれているとゴミで思わぬ怪我をするだろう。

 ───気になる場所は大体廻り、そろそろ帰ろうかということになった。
 帰りがけ、一人がナースステーションで───記念に何か持ち帰らないか?───と言い出した。
 皆、テンションが上がっており、それに同意する。
 何がいいだろう? と考え、ナースステーションに散らばるものに目が向いた。

 カルテである───。

 はさみやメスのようなものだと、あとで処分に困りそうだし、なんとなく気持ち悪い。
 それに比べて、処分も楽で、しかも病院らしい物だ。
 持ち帰るのに、手間になるものでもないので、これにしようということになった。
 数枚を適当に選び、彼らは廃病院を後にした。

 3日後───。
 廃病院に行った皆が集まった。
 皆、表情がなんとなく悪い。青ざめているといった感じか。
 そして一人が話し始めた。

 廃病院から帰った日の夜中、無言電話があった───。
 次の日、「○○病院ですが───」と、例の廃病院の名前で「───カルテを返して頂けないでしょうか」と電話があった───。
 その次の日も同じ電話があった───。

 皆、同じことが起きていた。
 最初は誰かのいたずらと思ったのだが、数日の間に誰もやっていないことがわかったのだった。

 プルルルル───。

 不意に電話が鳴り、皆がビクリとする。
 顔を見合わせ、一人が意を決して電話を取る。

「・・・○○病院ですが、カルテを返して頂けないでしょうか───」

 例の電話だった。
 何も言えず、無言でいると───、

「───来られないようでしたら、こちらから受け取りに伺います・・・」

 ───電話が切れた。
 電話を受けていた者はガクガクと震えていた。
 なんとか落ち着きを取り戻した後、その旨を皆に伝える。
 皆の顔が一層青ざめる。

 ───その後、廃病院に駆け込み、カルテを返すと皆は逃げ帰った。
 以降、返却依頼の電話は無い・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 電話と廃病院にまつわる話で、もっとも有名なものかも知れません。

 派生系も多く、「電話が来るのがカルテを所持している人のみ」のパターン。
 小物では「カルテ」以外に「メス」や「はさみ」を持ち帰ったパターン。
 受け取りに来るパターンでは、「受け取りに伺う、と言った直後に、壁からナース姿の幽霊が出てくる」というビジュアルインパクトの大きいものもあります。

 余談になりますが、この手の廃病院の話の多くは関西方面が多かったようです。
 このお話のように、機材が残っているというのはほとんどなかったようですが、長らく廃墟として放置されていたところが、よく廃墟スポットとしてサイトに紹介されていました。
 今では解体されたところも多く、廃墟になっていても敷地にセキュリティが設置されるようになり、こういったお話も過去のものになりつつあります。

 では、これにて六十二の語り「返却依頼の電話」了。


六十三の語りに続く

2010/10/26 初版




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百物語 六十三の語り
鈴鳴零言

 さて、これはある人から聞いたお話です。

 ◆ ◇ ◆

 ある人の知人の体験であり、この話は又聞きになる。

 その知人、最近は昼前後の時間帯に、バスに乗っていることが多いらしい。
 バスは都心とまではいかないが、区内───街中を走っている路線と聞いた。

 そのバスに乗っていたときのこと───。
 バスが商店街に面した通りを通過していたときに、携帯が鳴った───というか、マナーモードだったので震えた。
 携帯を確認すると、メールではなく電話だった。
 電話番号は知らないもの───少なくともアドレスに登録してあるものではない。
 一応、周りを気にして、こっそりと電話に応答した。
 ───しかし、返事は無く、聞こえるのは風鳴り(?)のような───ゴオォォォ───というノイズだけだったという。
 しばらく問いかけてみたものの、一向に様子が変わらないので、いたずらか間違いだろうと判断して電話を切ったそうだ。

 それから数日が経ち───。
 またバスに乗っているときに、その電話があった。
 そのときはメールチェックをしていたそうで、すぐ電話に出たという。
 ───結果は同じ。例の風鳴りがしていただけである。
 先日の事を思い出し、後で履歴を確認したら、やはり同じところからだった。

 その後も時折、電話がかかってくることがあったが、いたずらにしては不定期で、そもそもナンバーを隠していない。
 着信拒否をするほど鬱陶しいわけでもなかったので、放っておいたのだそうだ。

 ある日───。
 今回は久しぶりに、その電話がかかってきた。
 いつもは何回か問いかけたら電話を切ってしまうのだが、今回は切らずにいてみようかと考えたという。
 電話に出ると、いつものように問いかける───反応は無し。ここまではいつもと同じ。
 その後、無言のまま、音を聞き続けたのだそうだ。

 ───いつもと違った聞き方をしていたせいか、あることに気づいた。

 風鳴りが徐々に大きくなっているのである。
 そしてしばらくすると、また徐々に風鳴りは小さくなっていき───不意に電話が切れた。
 一体、何だったのだろう?───というのが素直な感想だったらしい。
 中途半端に気になってしまい、今度は電話がかかってこないかと待っていたそうだ。

 そして先日───。
 例の電話がかかってきた。
 問いかけの後、また、無言で聞き続ける。

 ───風鳴りが徐々に大きくなっていく。
 そして、しばらくすると徐々に小さくなっていき───。

 バンッ!

 不意に───テーブルを手で思い切り叩きつけたような───何かが破裂したような───鈍く大きな音が響く。
 ───そして無音となり、電話が切れた。
 その音に知人はひどく驚いたという。

 ───以降、その電話はまだかかってきていないそうだ・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 さて、ある人の知人の体験は語りの通りなのですが、補足するべき後日談があります。

 語りの中で明確にしていませんでしたが、よくよく考えてみると、この路線に乗っているときのみ、例の電話がかかってきていたそうです。
 また、かかってくる時間は昼前後───最大、数時間の差があるのですが、いつも商店街通りを走っているときにかかってきていたような気がする、ということでした。

 ある人(ややこしいので「ある人」をA。その「知人」をBとします)───AがBの使っている路線を使う機会があったのだそうです。
 Bはその商店街通りに無線が混戦する何かがあるのかも?───と思っているそうですが、Aは霊的要素があるに違いないと考え、その通りを観察したとのことでした。

 結果───。
 その商店街通り、霊的要素の物がありました。
 「火葬場」です。
 都内に住んでいる人は見たことあるかもしれませんが、意外なところに無煙式火葬場が建っていたりします。

 ここからは推測になりますが、風鳴りは「火葬炉のバーナーの音」なのかもしれません。
 そしてAは電話番号が「火葬場の電話番号」じゃないかと推測しています。霊が利用しているのでは?───と。
 機会があったら、今度は電話番号を教えてもらうそうです。
 最後に、叩きつけたような音、あれは・・・。

 あなたの推測はどうでしょうか?

 では、これにて六十三の語り「風鳴りが聞こえる電話」了。


六十四の語りに続く

2010/10/28 初版




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百物語 六十四の語り
鈴鳴零言

 さて、怪異には最後まで聞いてはいけないものがある一方、最後まで聞いたほうが良いものもあります。

 ◆ ◇ ◆

 ───ある3人の友人達の会話に、それは上った。

「そういえば昨日の夜、変な電話があったんだよ───」

 彼が言うには、その電話は何を言っても反応せず、ひたすら問いかけを繰り返すのだという。

「確か・・・『あなた、本当は───キュルキュル───いんでしょ』とか言ってたかな。途中でテープを早回ししたみたいになってたから、喋ってるんじゃなくてテープかもな」

 彼はいたずらと判断して途中で切ったという。
 皆で、妙な電話だな、と相槌を打ってその話は終わった。

 その日から数日後───。
 電話の話をした彼は唐突に亡くなった。

 そして、さらに数週間後───。
 もう一人の友人も唐突に亡くなった。

 ───以来、残された一人は、自分から電話を取らなくなった。
 二人目に亡くなった友人も、亡くなる前に例の電話を取っていたからだ。
 その電話が原因じゃないか? と、直感的に思ったのだ。

 数年後───。
 彼女も出来て、電話をしていたら、いつのまにか夜中になっていたので話を切り上げた。
 電話を切って───すぐ電話がかかってきた。
 何か言い忘れかな? と、すぐに電話を取る。
 もしもし、と訊ねる間もなく───、

『あなた、本当は───キュルキュル───いんでしょ───』

 ───話に聞いていた声が受話器から聞こえてきた。
 長年、警戒して自分から電話を取らないようにしていたのに、うっかり電話を取ってしまった。最早、後の祭りである。

 あなた、本当は───キュルキュル───いんでしょ───。
 あなた、本当は───キュルキュル───いんでしょ───。

 繰り返される問いかけの声は、予想通りと言うべきか───ただのいたずらとは思えない“何か”を感じる。
 たぶん、電話を切ったら終わり───そう思った。

 ───初めのうちは、友人達もしたであろう、問いかけたり、怒鳴ったりを続けていたが、そのうち精神的に疲れ、無言になっていた。
 何を言っても、向こうは機械的に繰り返すだけ。
 ただのいたずらなら、電話を切っておしまいなのだが・・・。

 あなた、本当は───キュルキュル───いんでしょ───。
 あなた、本当は───キュルキュル───いんでしょ───。
 あなた、本当は───キュルキュル───いんでしょ───。

 ただ声を聞き続けて、時間の感覚が無くなっていた。
 窓を目にすると、夜明けが近いのか、若干色合いが変わっている気がした。

 あなた、本当は───キュルキュル───いんでしょ───。
 あなた、本当は───キュルキュル───いんでしょ───。
 あなた、本当は───キュル───キュル───いんでしょ───。
 あなた、本当は───キュルキュル───いんでしょ───。

 ふと、聞こえている声に変化があった気がした。
 注意深く聞きなおす。

 あなた、本当は───キュルキュル───いんでしょ───。
 あなた、本当は───キュルキュル───いんでしょ───。
 あなた、本当は───キュル───キュル───いんでしょ───。
 あなた、本当は───キュルキュル───いんでしょ───。
 あなた、本当は───キュル───キュル───いんでしょ───。

 問いかけの早回しになっている部分が遅くなってきている気がした。

 あなた、本当は───キュル───キュル───いんでしょ───。
 あなた、本当は───キュル───に───キュル───いんでしょ───。
 あなた、本当は───キュル───キュル───いんでしょ───。
 あなた、本当は───キュル───に───キュル───いんでしょ───。
 あなた、本当は───キュル───に───た───いんでしょ───。
 あなた、本当は───キュル───に───キュル───いんでしょ───。

 あともう少し───。

 あなた、本当は───キュル───に───た───いんでしょ───。
 あなた、本当は───し───に───た───いんでしょ───。
 あなた、本当は───キュル───に───た───いんでしょ───。
 あなた、本当は───し───に───た───いんでしょ───。
 あなた、本当は───し───にた───いんでしょ───。
 あなた、本当は───しにた───いんでしょ───。
 あなた、本当は───しにたいんでしょ───。

『あなた、本当は死にたいんでしょ───』

 問いかけを理解した瞬間、思わず叫んでいた。

「俺は死にたくない!」

 電話はぷつりと切れた・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 一時期は割と有名だったお話です。
 しかし、これも時代背景と共に薄れつつあるお話でしょう。
 携帯、メール、ナンバーディスプレイなどの要素が入ると、話の前提条件が変わってくるためです。

 さて、このお話を聞くと、語りのように“例の電話”がかかってくる・・・こともあるようです。
 あなたにこの電話はかかってくるでしょうか?

 では、これにて六十四の語り「キュルキュル」了。


六十五の語りに続く

2010/10/30 初版




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百物語 六十五の語り
鈴鳴零言

 さて、電話にまつわるお話を挙げるなら、これは外せないでしょう。

 ◆ ◇ ◆

 ある日のこと、留守番をしていると電話がかかってきた───。

『もしもし。わたしメリー。これからあなたのお家に行くわ』

 ───そう言って電話は切れた。
 メリーという名前には一つ心当たりがあった。
 しかし・・・。

 しばらくして、また電話がかかってきた───。

『もしもし。わたしメリー。今、駅についたわ』

 ───そう言って電話は切れた。
 メリーとは、このマンションへ引っ越す時に捨てた、人形の名前だった。

 しばらくして、また電話がかかってきた───。

『もしもし。わたしメリー。今、学校の前にいるわ』

 ───そう言って電話は切れた。
 メリーが何者かは分からないが、ここに向かっているらしい。

 しばらくして、また電話がかかってきた───。

『もしもし。わたしメリー。今、公園の前にいるわ』

 ───そう言って電話は切れた。
 メリーはここへ確実に近づいてきていた。

 その後も何回か電話がかかり、そのたびに少しずつ───そして確実に近づいてきていた。

 しばらくして、また電話がかかってきた───。

『もしもし。わたしメリー。今、マンションの前にいるわ』

 ───そう言って電話は切れた。
 ついに、ここまでやってきたらしい。
 どうするべきなのだろうか。

 考える間もなく、電話がかかってきた───。

『もしもし。わたしメリー。今、3階についたわ』

 ───そう言って電話は切れた。
 メリーは、もうすぐ住んでいる5階にくるだろう。

 そして電話がかかってきた。
 今までより間隔が短い───。

『もしもし。わたしメリー。今、5階についたわ』

 ───そう言って電話は切れた。
 ついに同じ階に来てしまった。

 受話器を置くと、すぐに電話がかかってきた───。

『もしもし。わたしメリー。今、ドアの前にきたわ』

 ───そう言って電話は切れた。
 必死に心を落ち着けながら考える。
 普通に考えて人形がやってくるわけがない───きっと誰かのいたずらに違いない。
 意を決してドアに近づき、覗き窓から様子を窺う───。

 ───誰もいない・・・。

 用心してドアを開ける。
 辺りに何か置いてあるということもなかった。
 拍子抜けしつつドアを閉めた。

 部屋に戻ると───待っていたように電話がかかってきた。

『もしもし。わたしメリー。今、あなたのうしろにいるわ』

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 メリーさんは電話にまつわるお話で、トップ3に入る知名度ではないでしょうか。
 古くからあるお話ですが、時代に合わせて設定が変化しているのも、長く語られている理由かも知れません。

 お話の基本は───、

 少女が外国製の人形を引越しの際に捨て、その日の夜、電話がかかってくる。最初はゴミ捨て場。
 そして近づくごとに電話をかけてくる。
 玄関前まで近づいたとき、少女は意を決して外を確かめるが、誰もいない。
 部屋に戻ると、また電話がかかってきて、「あなたの後ろにいる」で終わる。

 ───というもののようです。
 よくある派生系では───、

 電話を取るのが「少女」ではない。
 「引越しの際に捨てた人形」の設定が端折られている。
 最初に電話がかかってくるのは「その日の夜」とは限らない。
 電話の最初の地点が「ゴミ捨て場」ではない。
 引越し先がマンションというのも、実は派生系の一つ。
 「玄関を開けて確かめる」場面が端折られている。
 「あなたの後ろにいる」の続きがある。

 ───主にこんなところでしょうか。
 人形の名前もメリーだけではなく、「メアリー」「マリー」の場合、また「リカちゃん人形」の設定なども見られます。
 「あなたの後ろにいる」の続きでは、「振り向くと殺される」「人形にされてしまう」「謎の怪死」などがあります。
 お話の一部が端折られているというのは、よくあることですが、それにより「人形ではなく、少女の霊」パターンと言えるものが最近の基本かも知れません。

 最近は純粋な怪談だけではなく、メリーさんをドジっ娘やいぢられキャラに設定したものも見られます。
 私が見たもので───、

「玄関を開けてもらえず、『あけてよぅ・・・』と涙ぐんだ声で電話がかかってくる」
「後ろにいると言われても無視され続け、対象の後ろを半泣きでついていく少女の姿・・・」
「対象が高層マンションにいて、メリーさんは階段で上っているらしく、途中でバテてしまう」

 ───などがありますが、これはこれで萌えキャラが認知された時代を反映していると言えるでしょう。
 一見、ただオチがついたパターンのようですが、楽しめるのは「元ネタを知っているからこそ」でもあります。

 では、これにて六十五の語り「メリーさん」了。


六十六の語りに続く

2010/11/03 初版




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百物語 六十六の語り
鈴鳴零言

 さて、今回は「メリーさん」の派生系であり、また別のお話の派生系でもあります。

 ◆ ◇ ◆

 先日、引越ししてきた、中学生になったばかりの女の子がいた。
 その子が留守番をしていると電話がかかってきた───。

『もしもし。わたしリカちゃん。どうしていっしょに連れて行ってくれなかったの? わたしも新しいおうちでいっしょにあそびたいな』

 ───そう言うと電話は切れてしまった。
 気味の悪い電話だった。
 確かに引越しする際、中学生になるということもあり、また、あげるような小さい子もいなかったので、昔から遊んでいたリカちゃん人形を思い切って捨ててしまっていた。
 誰かのいたずらだろうか・・・。

 その電話があってから、しばらく経っても何事も無く、次第に忘れていった。

 そんなことがあってから数ヶ月が経ち、また留守番をしていたときに電話がかかってきた───。

『もしもし。わたしリカちゃん。あなたのおうちに行こうとしてたんだけど、途中でからだがばらばらになっちゃった・・・。しばらく遊びにいけないかもしれないわ。ごめんね』

 ───そう言って電話は切れてしまった。

 この電話がかかってきてから、大体1ヶ月ごとに電話がかかってきた。
 女の子が一人でいるときに限って・・・。
 毎月のように電話がかかってくるので、そのうち女の子はノイローゼとなり、入院してしまった。

 それからしばらくして───ある噂が流れるようになったという・・・。

 ◇ ◇ ◇

 夕方に1人で人気の無い道を歩いていると───、

「ねぇ、○○ちゃんのおうちしらない?」

 ───と、後ろから声をかけられるという。
 声をかけられて振り向くと、そこにはリカちゃん人形の首だけが宙に浮いていて───、

「ねぇ、しらない?」

 ───と、もう一度訊ねてくる。
 たとえ逃げ出しても、その首は物凄い速さで追いかけてくるという。
 そして───、

「しってるんでしょ?」

 ───と、訊ねられ、もし「知っている」と答えてしまうと───、

「そう、よかった。でも、わたし、ここにくるまでにいたずらされちゃって、頭以外どこかへなくしちゃったの。あなたの足をちょうだい」

 ───と、言われ、足をちぎられてしまう。

 同様に次の人、またその次の人と話しかけては───腕を───体を───と求めて、このリカちゃん人形は彷徨っているという。

 尚、声をかけられるのは、入院してしまった女の子と同じ名前の子と、その名前を持つ友人だけだと言われている・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 語り方によりますが、噂が発生するまでの背景設定と、その噂のパートに分かれたお話です。

 前半は「メリーさん」のお話。後半は人形系のお話にある「体の代用を求めて彷徨う」タイプのお話の混合になっています。
 怪談には派生系のお話がつきものですが、これはわかりやすい混合派生系の一つだと思います。

 このお話、実はもう少しおまけがついています。

「この話を知ってしまった人のところに、1週間以内に現れる」
「出遭ってしまった場合、ある呪文を唱えると助かる」

 いろいろな怪談を知っていると分かると思いますが、このおまけもまた、お約束のようなものです。

 リカちゃん人形は、有名なだけに人形系のお話に時折───その多くは派生系として───出てきます。
 それだけ身近な人形であり、また人形自体のバリエーションが豊富なことの証明なのでしょう。

 では、これにて六十六の語り「彷徨うリカちゃん人形」了。


六十七の語りに続く

2010/11/05 初版




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百物語 六十七の語り
鈴鳴零言

 さて、今はすっかり見なくなりましたが、往年の定番の一つです。

 ◆ ◇ ◆

 ある学校の女子トイレで妙な噂が立っていた。
 特定の時間帯───主に放課後、トイレに自分一人しかいないとき、個室に入っていると妙な声が聞こえてくるというのである。
 最初は誰かが悪戯しているものだと思っていたのだが、トイレには自分一人しかいなかった───そんな事が何度かあり、変質者か何かだろうか? と、警察に来てもらうことになった。

 後日、女子トイレということで、婦人警官(現:女性警察官)が確認に訪れた。
 一通り変な機材が仕掛けられていないことを確認すると、最も噂の多いトイレに入って待ってみることとなった。
 噂の通りだと、トイレには一人でいないと駄目なようなので、一人を残して近くの教室に待機することにした。

 待つことしばし───。

 婦警が洋式便器の蓋を閉じた状態で腰掛けていると───やがて、ぼそぼそとした呟きが聞こえてきた。

「───らないか───かい───ちゃんこはいら───」

 最初のうちは何を言っているのか分からなかったが、少しずつ声がはっきりしてくる。

「あかい───ちゃん───いらないか───あかい───」

 耳を澄ませていると、問いかけを繰り返していることが分かった。

「赤いちゃんちゃんこはいらないか───赤いちゃんちゃんこはいらないか───」

 婦警は声に対して───あなたは誰ですか?───悪戯はやめなさい───と声をかけるが反応が無い。
 いつの間にか、声は隣の個室から聞こえているように思えた。
 声が聞こえてくると思われる隣の個室の方を向いて、再び誰何する───言葉をかけおわる前に、声は反対側の個室から聞こえてくる。

 赤いちゃんちゃんこはいらないか───赤いちゃんちゃんこはいらないか───
 赤いちゃんちゃんこはいらないか───赤いちゃんちゃんこはいらないか───

 反対側の個室の方を向くと、また反対側から声が───。
 いつの間にか、声は常に反対側───背中側から聞こえてくるようになった。
 それは空間のある個室側だけではなく、自分のいる個室の壁側からも───。

 赤いちゃんちゃんこはいらないか───赤いちゃんちゃんこはいらないか───
 赤いちゃんちゃんこはいらないか───赤いちゃんちゃんこはいらないか───

 初めは普通に対応していた婦警も、異常な事態にパニックになっていた。
 そして───。
 婦警は繰り返される問いかけに、思わず“はい”と返事をしてしまった・・・。

 ───教室に待機していた者達は、婦警がいつまで経っても戻ってこないので様子を見てくることにした。
 トイレの入り口から声をかけるが、返事が無い。
 様子がおかしいので、個室の扉を開ける。

 そこには───便座の蓋に腰掛けた状態のまま、首の後ろに鉈を打ち込まれて絶命している婦警の姿があった。
 自身の血で染まった姿は、まるで“赤いちゃんちゃんこ”を着ているようであった・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 定番だっただけに、このお話も派生系が幾つか存在します。
 背景が学校以外であったり、鉈ではなく手斧であったり、というものもありますが、お話のキーとなる“赤いちゃんちゃんこ”、これが別のものに置き換わったものが有名かと思います。

 一つは「赤いマント」です───。
 これは今回の語りと基本的に変わりません。
 血で染まった背中が、赤いマントを着けたように見えるというものです。
 これの場合は「人気の無い道を一人で歩いていると、背後から問いかけられる」というパターンも見かけられます。
 その派生系の一つに「怪人赤マント」と呼ばれるものがあります。
 この事件を起こす犯人を指し、また妖怪的な扱いの場合もあります。

 もう一つは「赤い紙・青い紙」です───。
 これは他に「赤い色・青い色」の場合などもあります。
 前述との最大の違いは“青”の扱いがあることです。
 “赤”は同様に血まみれになりますが、“青”を選んだ場合、「血を抜かれて青ざめる」というものです。

 このお話、学校の七不思議に使われている場合もありました。
 特定の世代の人は、意外なほど知っているのではないでしょうか。

 では、これにて六十七の語り「赤いちゃんちゃんこ」了。


六十八の語りに続く

2010/11/09 初版




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百物語 六十八の語り
鈴鳴零言

 さて、今回はトンネルにまつわる有名なお話です。

 ◆ ◇ ◆

 あるトンネルがある。
 そこは、いわゆる旧道───旧トンネルと呼ばれるもので、今はすでに使われていない。
 そのトンネルでは、ある事をすると怪異が発生すると言われている───。

 深夜、廃トンネルに来た者達がいた。
 肝試し───というよりは、遊び半分でトンネルの噂を試してみよう、といったところだ。
 乗ってきた車でそのままトンネルに乗り入れる。
 トンネルは狭く、車一台が入れる程度。帰りはバックで出なければならない。

 ある程度進んだところで車を停める。
 いつしかトンネル内の雰囲気から口数が減っていた。
 確認するように、車内の皆を見回す。
 じゃ、消すぞ───噂に従い、ヘッドライトを消した。
 トンネル内が暗闇に覆われる。
 そしてクラクションを鳴らす。

 プヮァァァッ─── プヮァァァッ─── プヮァァァッ───

 わずかな間を置きつつ三回。
 クラクションは大きくトンネルに響いた。
 車内に緊張が走る。

 ───クラクションの残響も消え、どれくらい経っただろうか。
 真っ暗闇のトンネル内を見通すように警戒していたが、何かが起こる様子もなく、次第に緊張が解けていく。
 やっぱり噂だったか───と皆が笑いかけ───、

 ドンッ
 衝撃と共に車が揺れる。
 確認する間もなく、続いて車が揺さぶられる。
 パニックの中、車出せ───の声に反応するようにバックに入れる。
 しかし───車は押さえつけられたように、その場でタイヤをスリップさせた。
 全力でバックに入れているにも関わらず、車は少しずつ意図しない方向に滑って───ひきずられていた。
 車が壁面に擦れ、壁の中に引きずり込まれるような感覚を覚える。
 誰かが、車から出て走れ!───その声に皆、車から飛び出ると一目散にトンネルの入り口に向かって駆け出した───。

 ───翌日、車を確認に戻ると、そこにはトンネルに対して真横を向いてぴったり嵌まり込んだ車が見つかったという・・・。

 ◆ ◇ ◆
 ・・・という、お話。

 トンネル内でクラクションを三回鳴らすと怪異が起こるいうお話です。
 その怪異は主に───、

「誰かが車の周りを回る」
「後で確認すると、車に手形がついている」
「声が聞こえる(呟き・悲鳴など)」
「エンジンがしばらく始動しなくなる」

 ───などが挙げられます。
 手順は基本的に「明かりを消して」、「クラクションを三回鳴らす」だけですが、「時間要素」と明かりの他に「エンジンも切っておく」というものもあります。

 このお話のトンネルは実在のものですが、今はもう車の乗り入れ───立ち入り自体、出来ないようになっているかもしれません。
 それだけ昔から伝えられているお話でもあります。

 では、これにて六十八の語り「クラクション」了。


六十九の語りに続く

2010/11/11 初版




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百物語 六十九の語り
鈴鳴零言

 さて、あなたは無防備なときに怪異に出遭いました。どうしますか?

 ◆ ◇ ◆

 ある日───。
 風呂場の排水が悪くなっていたので、気合を入れて掃除することにした。

 普段、おざなりになっていた部分を丁寧に掃除していく。
 最後はきっかけであり、本題と言える排水口の掃除だった。
 排水口の網に絡まった髪の毛を取り除いていくと───やけに長い髪の毛があった。
 明らかに自分の髪の長さではない。
 家にこんな長い髪の毛の人物はいない───というか、一人暮らしだ。
 どこかでくっついてきたのだろうか・・・?
 疑問を覚えながらも見える部分の掃除を終え、排水口に詰まり取りの洗剤を流し込んで掃除を終わらせた。

 後日───。
 仕事で三日程、家を空けていた。

 仕事から帰ってきて、疲れを癒すために風呂に入ることにした。
 湯を張ろうとして───ふと、バスタブの底に目に付くものがあったような気がした。
 なんだろう? と確認すると、それは数本の長い髪の毛だった。
 先日の掃除を思い出し、気持ち悪さを覚える。
 部屋に誰かが隠れている───とは思えないが、一応は考えられるところを見て回る。
 やはり、誰もいない。
 念の為、鍵を取り替えるか───そんなことを考えながら風呂に入るハメになった。

 それから数日後───。

 仕事から帰ってきて、こまごましたことを終える。
 最後に風呂に入ってさっぱりしたら寝る。
 そんな生活サイクルが基本だ。
 そして今も風呂場で椅子に腰掛け、頭を洗っていた。
 目を瞑って、頭皮をマッサージすることに没頭していると───髪を洗っている感覚に何か違和感があった。
 そのまま違和感を感じつつも洗っていると、その違和感が何かに思い当たった。

 髪の毛の量が多い・・・。

 頭を洗いつつ、床に顔を向けながら薄目を開けてみる。
 自分の頭から髪の毛が垂れているのが見える───しかし、自分はここまで髪の毛は長くない。
 そのとき背後に誰かの気配を感じた。
 気づかれないように、頭を洗い続けながら様子を窺う。

 ───女性だろうか? よくわからないが、背後に立って、こちらの頭に髪の毛を垂らしている───そんな感じらしい。
 いつまでも頭を洗っているわけにもいかず、思い切って振り向くことにした。
 さりげなくシャワーで頭を流し───振り向いた・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 怪異のお話は場所を選ばずにあるものですが、霊と関係の深い場所の一つ───水場にまつわる定番の一つです。

 このお話、結末はどうなったのか?
 背景設定次第で結末がいろいろとあります───。

 アパートなどだと「過去に住んでいた人」に関連している。
 ホテルだと「いわゆる出るホテル」の怪異の一つ。

 ───このような感じで、過去に「殺人事件があった」「自殺騒ぎがあった」などの背景を下敷きに出てくることが多いですが、何の脈絡も無く───強いて言えば水場───出てくることもある怪異です。

 あなたが風呂に入っているとき、背後に誰かの気配を感じたことはありませんか?

 では、これにて六十九の語り「髪の毛・風呂場編」了。


七十の語りに続く

2010/11/15 初版




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百物語 七十の語り
鈴鳴零言

 さて、今回は実在系シリーズの定番と言えるものです。

 ◆ ◇ ◆

 出張でビジネスホテルに泊まっていた。
 本日分の仕事を終え、シャワーを浴び、軽く一杯飲んでから床に就いた。

 夜中、尿意を覚えてトイレに起きた。
 トイレから戻ると、ふと、隣が騒がしいことに気がついた。
 騒がしいとは言っても、ぼそぼそと何か喋ってるらしいのが分かる程度で、深夜の静けさだから気づけたのだろう。
 それ以上は気にせず、明日に備えて再びベッドに戻った。

 早朝、今日はチェックアウトすることもあり、少しだけ大荷物だった。
 部屋を出る前にトイレに行き、そういえば、と夜中のことを思い出した。
 部屋を出て、何気なく隣を見る。

 そこで、はっ、とさせられた───。
 自分の部屋が角部屋であり、ざわついていた側には部屋がなかったのだ・・・。

 ◇ ◇ ◇

 ビジネスホテルに泊まっていた。

 夜中、息苦しさを覚えて目を覚ます。
 薄暗い中、何かが目の前にゆらゆらと揺れていた。
 なんとなく手を伸ばしかけたところで、ぼんやりした頭が一気にはっきりとした。
 ひっ───と短い悲鳴を上げ、ベッドから転げ落ちた。
 あわてて起き上がると、それはもうなかった。

 後日、そのホテル指していると思われる噂を知った。

 曰く「風呂場に長い髪の毛が落ちている」
 曰く「髪の長い女の霊が、天井から逆さまにぶら下がっている」

 今まで幽霊なんか信じていなかったが、この日、“本物”があることを理解した・・・。

 ◇ ◇ ◇

 あるビジネスホテル、そこの角部屋は決まった時間に女性の幽霊が出る。
 それは夜中の決まった時間に、天井から床へと、速い速度で通り抜けていくのだという───。

 昔、この場所はホテルではなく、マンションが建っていた。
 そして───理由は今となっては知る由もないが、一人の女性が屋上から飛び降りた。
 その後、マンションが潰され、ビジネスホテルが建てられた。
 当時のマンションの外側───飛び降りた場所が、今の角部屋の位置だと言われている。

 ───そう。
 噂の幽霊はマンションで飛び降りた女性だとされている。
 飛び降りた日を繰り返し繰り返し再現しているのだと。

 この幽霊、何度お祓いを行なっても効果がなく、飛び降りを繰り返し続けている。
 そして───、

 その時間、見たことのある関係者は、角部屋の1階にだけは行かないという。

 ───お気づきになった方もいるであろう。
 そこには血溜まりに横たわる女性の姿が再現されているのである・・・。

 ◆ ◇ ◆

 ・・・という、お話。

 ビジネスホテルやラブホテルに関連するものは都市伝説の定番です。
 基本要素を抜き出して、背景設定が変更されているものも割と見かけられますので、似たお話を知っているという方も多いのではないでしょうか。

 では、これにて七十の語り「ビジネスホテル」了。


七十一の語りに続く

2010/11/17 初版

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