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やよマス 14話
匿名希望P

『やよいちゃん、春香さんとの夕食』




 我が573プロダクションの看板アイドルと言えば、やっぱり天海春香さんです。
 美希ちゃんや雪歩さんも売れっ子アイドルの目安となるCランクですが、春香さんはすでに2桁違うAランクアイドルです。
 ファン数も、CD売り上げ枚数も、ギャラの額も文字通りに桁違いです。
 Fランクまっしぐらのやよいちゃんがドサ回りをしている間に、とんでもないアイドルになっていました。

 そんな春香さんは、現在、某国家的公共テレビ局MHKに出ています。
 見本的放送協会の略でお堅いことこの上ない局なので、梅山さんなどは思い切り出入り禁止です。

 呼ばれる事自体が、国民的アイドルというイメージで固められたという指標にもなるわけで、音楽番組ミュージックトウキョウの『新世紀アイドルスペシャル』の大トリとして、舞台で歌っておりますよ。

 MHKホールを埋め尽くしたファンの皆さんが振るサイリウム(発光スティックね)があまりに綺麗で、ちょっと感動モノです。


【やよい】
 「うっうー、やっぱり春香さんはスゴイです」

【冬本】
 「うーん、ボク的にはJPN84が大トリでと思ったんだけど、MHKはキャリア優先だからねぇ・・・数字的には50万枚くらいはリリース直後に差が出てるんだけどなぁ」


 能面がぶつぶつ言ってます。
 春香さんはシングルを出しても初週で30万枚くらい売り上げるんですが、JPN84は予約段階で70万枚とか入る化け物ユニットなのです。


【やよい】
 「JPN84さん達にパフォームさん達、魔王エンジェルズさんも、人気声優の三月ややさんもいるです」

【P】
 「豪華なメンバーだね」

【やよい】
 「みんな、年末の白黒歌試合に出演してた人ばっかりれぅ」


 MHKのことだから、この番組とセットでオファーしていたんでしょう。
 ムリヤリ受信料を払わせる割にはクソつまんない番組ばかりで、視聴率も地ベタを這いずり回ってる・・・ってわけで、冬本Pが言うところの数字取りに躍起になっているというのがもっぱらの見方です。

 気合いの入れ方が違うようで、まさにアイドル大集合の様相を呈しています。

 ちなみにやよいちゃんと同期デビューの美希ちゃんも、まだ前座という感じだったけど、今日、このステージに立ってます。
 ずいぶん差が付いてしまいますた。


【冬本】
 「Pちゃんが雪歩たんを引き受けてくれたおかげで、今回は美希たんにイイ詞をプレゼントできたよ。歌はまだまだだけど、彼女には華があるねぇ。渡り廊下爆破隊のセンターでもいけるネ!」


 だからPちゃんって言うな・・・。


【やよい】
 「そういえば、今日、雪歩さんは〜」

【P】
 「ん? またテレビのレギュラーが増えてね。桂家ムギ助師匠の突撃よこちょの昼ご飯の収録に行ってるよ」

【冬本】
 「まー、そういう路線もアリなんじゃないの」

【やよい】
 「うっうー、あの仕事いいですよね。美味しいモノを食べてギャラをいただけるなんて幸せれぅ!」


 どうやらやよいちゃんは、この光り輝くサイリウムの海より、よこちょの昼ご飯が気になるようです。
 まあ、ケミカルライトは食べられないからなぁ・・・。
 いやいや、マイペースなのは良い事ですが、永遠にFランクの仕事をこなして行く気なのでしょうか。
 少し、教育方針を考え直した方がいいかもしれません。


【司会者】
 「それではMHKホールからさようならー! 次の出演アイドルを決めるのはあなたですっ!」


 収録が全て終わり、出演者の皆さんが控え室に戻ってまいりました。
 冬本さんはウッホウッホ言いながら、JPN84の楽屋へ行ってしまったようです。

 あちらは大型ユニット用の大部屋。
 春香さんはワンルームマンションくらいの大きさで、今時、畳敷きという部屋が楽屋としてあてがわれています。(綺麗ですが)
 この時期、ブーツ履きも多く、アイドルは洋装がほとんどなので、畳のいくつかが外されて、床にテーブル置き&パイプ椅子で急遽、洋間になっているという不思議な楽屋です。


【やよい】
 「お疲れさまです、春香さん」

【春香】
 「やよいちゃん、ありがと」


 うおっ!
 本物です!

 本物のトップアイドル天海春香さんがオレの目の前に立っています。
 汗びっしょりだったのを拭いたばかりなんでしょうか。
 お風呂上がりみたいな雰囲気ですよ。
 局には大きなお風呂があるので、改めてあとで入ってくるのかもしれません。
 私服姿の春香さんは何度も事務所で見ていますが、ステージ衣装を着ている春香さんはやっぱりオーラが違います。


【P】
 「春香さん、今日のステージも最高でしたよ。生で見たのは初めてですが」

【春香】
 「えへへ、ありがとうございます、プロデューサーさん。そうだ! せっかくお手伝いに来てくれたんだし、やよいちゃんも一緒にご飯行こうよ。奢ってあげるよー♪」

【やよい】
 「本当ですかー!? それじゃ駅前のラーメンがいいですぅ」


 おおう、この瞬間だけなら春香さんに負けないほど輝き始めたやよいちゃん。
 Aランクアイドルと一緒っていう事を忘れているようです。


【P】
 「こらこら、春香さんがその辺のラーメン屋にいきなり登場したらパニックが起こるだろ」

【やよい】
 「うっうー」

【春香】
 「あはは、それって律子が言ってたラーメン屋さんでしょ。いいなぁ、亜美も言ってたけどすっごい美味しいんだってね」

【やよい】
 「はいっ♪ ラーメンもギョーザも最高ですぅ」


 そう言えば、この前、例の低俗番組収録の時の約束で、やよいちゃんと雪歩さんを連れて行ったんだっけ。
 オレはなぜか2回目にして顔を覚えられてて、「あんちゃんはチャーハンも食べとこうか、今日は。チャーハンって顔してるもんな」などと言われましたよ。

 どんな顔だよゴルァ!!!!

 おっと、ついたぎってしまいました。
 ちなみにやよいちゃんは、しっかり6人前、おみやげの餃子を持ち帰ってました。


【P】
 「律子さんって安くて美味しいお店を見つけるの得意ですよね」

【春香】
 「そうね・・・前はよく一緒にご飯行ったけど、最近はぜんぜん律子と行ってないなぁ」

【P】
 「律子さんも亜美ちゃんや伊織ちゃんのプロデュースを始めたから忙しいんですよ」

【春香】
 「そうですよね・・・。そうだ、近くにいい中華ダイニングのお店があるんだけど、予約お願いしていいですか。3人で」

【P】
 「お安いご用ですよ・・・ってオレもいいんですか?」

【春香】
 「ホントは美希ちゃんや雪歩も誘いたいんだけど、それぞれ仕事が忙しいから・・・。いい? やよいちゃんは売れちゃダメよ」

【やよい】
 「うっうー、それヒドイれぅ」

【春香】
 「うふふ、ジョーダンよジョーダン。やよいちゃんはちゃんとトップアイドルになって、家族を支えるって目標があるんだからガンバらないとね」


 廊下に出て、予約の電話をしていると、売れっ子達が次の仕事へ、これで仕事終わりの人たちはオレ達みたいに連れ立って打ち上げにでも行くのか賑わってます。
 おつかれさまでしたーが連呼される中で無事に予約終了。

 春香さんの楽屋に戻ろうとしたら、派手なんだか地味なんだか分からない80年代な人に声をかけられました。


【?】
 「君、次の曲なんだけどね・・・」

【P】
 「は、はあ」


 作曲家さん?
 誰かと間違えてるのかもしれません。


【P】
 「失礼ですが・・・」

【作曲家】
 「天海くんの楽屋から出てきたよね?」

【P】
 「はい」

【作曲家】
 「それならいいんだ。聞いてくれ。200回くらいはヴォイストレーニングして欲しいんだ。ただ歌うだけでいい。この曲を歌い込むだけでぜんぜん変わるんだよ」

【P】
 「天海に申し伝えます」

【作曲家】
 「それだけなら、楽屋に入ってるよ。ああ、もう忙しいんだ。高槻くんが歌うかもしれないんだから、君にちゃんと聞いて欲しいんだよ」

【P】
 「わ、わかりました・・・でも、そんなに歌うんですか?」


 こりゃたいへんなことになってきましたよ。
 ってかやっとプロデューサーらしい仕事に・・・いや、スタジオに連れて行くだから付き人に近いか。
 冬本Pなんて曲まで作ってるもんなぁ。


【作曲家】
 「君だって体験したことがあるはずだ。歌い慣れた曲は声を出すのが楽だろう? がんばって歌ってる感がなくなるまでが理想でね。その上で噛んで含めるように、語りかけるように歌えるようになれば、彼女は輝く」

【P】
 「いわゆる“伝える”ってことですよね」

【作曲家】
 「ああ、そうすれば彼女の声で曲の歌詞が聴く人の心に届く。どんなに歌い込んでも中間音にならないように気をつけて、ビートは弱めでテンポ早めに作っておいた」

【P】
 「あの、中間音というのは・・・」

【作曲家】
 「アートの域かな、ハハハ。おたまじゃくしのないところを縫うように歌えるようになってしまうんだよ。そうだなぁ、上手な演歌歌手が持ち歌のラストでコブシを回してる時に、高くも低くもない微妙な音程を出すことがあるだろう? 素人には音を外してるように聞こえるかもしれない」

【P】
 「なるほど」

【作曲家】
 「僕が出来るのはここまで。あとは頼んだよ。天海さんの詞が届くように、高槻さんのステージが満員になるように出来かは君次第だ」

【P】
 「は、はい」


 ひょっとして大役?
 作曲家先生が言ったことをよく覚えておこう。
 それにしても、感受性が強いというか、やはり歌詞を見てさらっと曲を作れるような人は表現が芸術的かもしれない。
 先生がオレに手渡したスコアブックを持って感慨に耽ってると、今度はキビキビとしたお姉さんに 声をかけられました。


【?】
 「あ、いたいた」

【P】
 「・・・」

【振り付け師】
 「ちょっといい? 振り付けは高槻さんの体格に合わせていいの?」

【P】
 「え? はい?」


 今度は573プロお抱えの振り付け師さんが来ましたよ。


【振り付け師】
 「天海さんがあとからカバーするとか予定あるなら、ちょっと変えようと思ってるのよ」

【P】
 「すみません、話がぼんやりとしか見えてないんですが、573プロとしては、ウチのアイドルがとっかえひっかえ歌うかもしれませんよ、どんな歌でも。天海バージョンとか千早バージョンとか言って」

【振り付け師】
 「なるほどね・・・」

【P】
 「さっきも作曲家先生に呼び止められましたが・・・何がどうなってるのか」

【振り付け師】
 「高槻さんが踊るかもしれないんでしょ? 彼女、ちっさいから。関節から関節までの距離が短いってことよ」


 当たり前ですが・・・。
 すでに振り付け師にまで話が言ってるのに驚きですが、いきなり何を言い出すんでしょう、この人は。


【P】
 「身長に合わせて、手足はそれなりに短くなると思います」

【振り付け師】
 「そう! ぶんぶん振り回すように見えて可愛くなるのね。だから高槻さんに合わせてダンスを組むと元気いっぱい、可愛さいっぱいになるってわけ」

【P】
 「それはイメージにピッタリですよ。ありが・・・」

【振り付け師】
 「他のアイドルが踊るともたつくかもしれないの!」


 怒られてしまいました。
 オラ、何も悪いことしてねえだ。


【振り付け師】
 「カバーとか他の人バージョンがあるってことは・・・ぶつぶつ」

【P】
 「あの無理に合わせてもらわなくても・・・」

【振り付け師】
 「彼女が大きくなっても同じ事が言えるわね」

【P】
 「は、はあ」

【振り付け師】
 「手足が長くなれば、直線的な動きでもたつくかもしれないけど、円運動はより優雅に見えるでしょ。だから、肘が伸びきらないようにして、早く動けるように、それでいて回転動作を多めにしておくわね」


 すいません、何を言ってるかまったく分かりません。


【振り付け師】
 「とにかく出来たら連絡するからレッスンさせて。“指先まで緊張感を”なんて当たり前過ぎるの。曲を聴いたら身体が動き出すくらいダンスを沁みつけておかないと、余裕のある動きなんてできないから」

【P】
 「はい、ダンススタジオに通わせます」

【振り付け師】
 「私の所でいいのよ! いい? えーと次はあの動きをしなきゃ・・・なんて思いながら踊ってるアイドルなんて見たくないでしょ? 高槻さんがステージに立って歌い出したら、板張りのステージだとしても、真夏の海が、一面に雪がある冬景色が、寂しい夜のビル街が見えてこないいけないの。そんなのぜんぜん見えてこなくても、それくらいの表現力があれば、彼女の魅力が伝わるのよ」

【P】
 「よく覚えておきます」


 これだけプロの人達に鍛えられれば、やよいちゃんもFランクアイドルから脱却できるかもしれません。
 ってか、やよいちゃんに楽曲が提供される話なんて聞いてませんが・・・。


【振り付け師】
 「条件反射みたいに踊れるようになっても、ふにゃふにゃ力抜いて踊ってたら歌にも影響出るんだからね。歌詞にもよるけど、その上で一番大切な人のためだけに見せてるような振る舞いが出来たら理想。テンションもモチベーションも高めに保っておけないと、元気の良い曲はしらけちゃうから。あとはあなた次第ってとこもあるんだから任せたわよ」


 うう、また任されてしまいました・・・。
 もうオレが歌って踊らされる心境です。
 いやいや、やよたんの一番カワイイ、どっぎゃぁぁぁんと輝いてるところを見せられるように出来ることは全部やらなければ!

 もし、これが本当にやよたんの新曲の話なら、ですが。
 決意も新たに楽屋に戻りました。


【P】
 「すみません、遅れました。予約取れましたよ。それからこれを・・・」


 廊下で受け取ったスコアブックを春香さんにちゃんと渡しました。


【春香】
 「あ・・・」

【P】
 「どうしました、春香さん?」

【春香】
 「付き人やマネージャーって顔から、プロデューサーって顔になったかも」

【P】
 「オレですか?」

【春香】
 「うふふ、ちょっとだけね」



 ・・・


 春香さんがごちそうしてくれた中華料理のフルコースもたしかにすごく美味しかったけれど、律子さんが教えてくれた駅前のラーメン屋さんも食べさせてあげたいです。

 Aランクアイドルの春香さんには、個室がないと無理なのはわかってますけどね・・・。


【春香】
 「ねぇ、やよい」

【やよい】
 「なんですかー?」

【春香】
 「そろそろ新曲を出してみてもいいんじゃない?」


 来た!

 MHKの廊下での2人と会話した時(っていうより一方的にまくし立てられた感じだけど)、春香さんへの伝言というよりも、そこかしこにやよいちゃんベースになっているような、そんな雰囲気がありましたからね。
 春香さんが何かしたなら、ここで真相が聞けるかもしれません。
 wktkですお、wktk!

 正直、やよいちゃんのデビュー曲『おはよう夜ごはん』は一部のマニア層には多少売れたものの、大ヒットには繋がらなかったのです。
 もっとも、派遣労働まがいの営業ばかりだったから、ロクに曲のプロモーションをしていないのも事実なんですけどね。


【春香】
 「・・・この前、冬本さんと新曲の打ち合わせをしたんだけど、その詞がね、やよいちゃんにすごく合うんじゃないかと思ったの」

【やよい】
 「冬本さんの詞なんですか?」

【春香】
 「ううん、違うわ。冬本さんは最近、私より美希ちゃんにかかりきりだったから。私が前からお世話になってる武田先生に頼んでいた曲で、詞はね、私が書いてみたの」

【やよい】
 「!」

【P】
 「!!」


 やっぱりそうでしたか!
 どこかで見たような気がすると思っていたら、あのテっちゃんとイガちゃんを足して2で割らない感じの作曲家は、天才と呼ばれる武田蒼一先生じゃないですか。(←言われるまで分からなかった人)

 天才作曲家とトップアイドルの天海春香さんが作った歌なら大ヒットは約束されたようなものです。

 春香さん・・・あらかじめやよいちゃんに歌わせる可能性があると、各方面の先生方に伝えておいてくれたんですね。
 オレよりよっぽどプロデューサーとしての仕事をしています・・・。


【P】
 「あの・・・春香さん。その事は社長や冬本さんは・・・」

【春香】
 「もちろん言ってないですよ。っていうか、さっき思いついた話だし」


 そう言って笑った春香さんの横顔は少し寂しそうだったのですが、オレにはアイコンタクトで「先生2人との事は黙ってて」と言った気がしました。


【やよい】
 「・・・初めて春香さんに会った日の事、覚えてますか?」

【春香】
 「うん」


 微笑み合う、アイドルが2人。
 見てるだけで幸せになれるような外見の2人が話し始めたのは、春香さんがデビューしたてで律子さんと一緒に営業していた頃の事でした。

 当たり前と言えば当たり前ですが、トップアイドル天海春香にもFランク時代があったわけです。
 やよいちゃんがその頃の春香さんに会っていたなんて・・・。

 そして、ここまでエロ要素がゼロだなんて・・・・・・。


15話に続く

2011/05/22 初版
2011/08/04 第二版
2011/09/06 『にじファン』に転載
→『にじファン』サービス終了(2012/07)

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