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明かされなかったプロローグ
匿名希望P

『明かされなかったプロローグ』




 世の中にオレほど不幸な奴はいない。
 この時、オレは心の底からそう思っていた。


「すまんが、君の内定は取り消さざるをえないんだ」

「え?」

「内定はなかった事にしてほしい」

「ちょっと待って下さい。今さら言われても」

「申し訳ないとは思うが、こちらも正直それどころではないんだ」


 人事担当者からの電話は単刀直入だった。

 目の前が真っ暗になった。
 食品の産地偽装。
 不正経理発覚。
 一部、経営陣による横領。

 ブラック企業の見本みたいなスキャンダルの数々だった。
 それも、オレが入社を予定していた会社。
 スキャンダルと言えば聞こえはいいが、どれも犯罪だ。

 大手企業とも取引がある優良な中堅食品卸業者。
 二流の私立大学を卒業してから半年以上が経つ。
 就職浪人し、アルバイトをしながらの就職活動を経て
 ようやく正社員として内定をもらえたというのに・・・。

 この国の制度は一度、新規雇用のレールから外れてしまうと再びそのレールに戻る事は困難なのだ。
 失業率がそれを証明している。
 それでも毎日のようにハローワークに通い、求人告知を見つけては幾度も面接に出向いて見つけた就職先だった。


「どうしてもダメなんでしょうか」

「この会社自体が無くなる可能性が高いんだよ。何の補償も出来ないが悪く思わないでくれ」

「・・・そうですか」


 失礼しますと言わずに電話を切ったのは生まれて初めてだと思う。
 すまんが?
 申し訳ない?
 悪く思うな?
 オレの人生めちゃくちゃだよ、バカヤロウ!


 ・・・


 12月24日。
 クリスマスイブ。
 街には陽気なクリスマスソングが流れ、イルミネーションが輝いている。


「これからどうする・・・?」


 自問自答。
 実家の両親には就職が決まったので仕送りは要らないと連絡を入れた。

 苦労した甲斐があったね、
 よく頑張ったわね、
 本当に良くやったな・・・。
 次々に電話口に家族の誰かしらが出て喜んでくれた。
 オレと同じくらい辛かったんだと思う。
 まだ仕事は決まらないのか? って聞かないでいる事が。


「どうするか・・・」


 何度、自問しても答えなんて出やしない。
 あれだけ喜んでくれた家族になんて言える?

 どんよりと重く立ちこめる曇り空は、まるでオレの未来を暗示しているかのようだ。
 このまま立ち尽くしていても仕方がないと思い、まずは出来る事からしていくことにした。

 とぼとぼと通い慣れた道を歩いた。
 わかってはいても足は鈍りのように重い。

 もう一度、アルバイトとして雇って貰おうと以前、バイトをしていたファーストフード店に訪れた。
 オレの顔を見るなり、皆が集まってきて、


「おめでとう」


 かつての仲間達の声と、一生懸命に働く新人バイトの姿が見えた。
 今さら働かせてくれなんて言えなかった。


 ・・・


 どれくらいの量を飲んだのだろう。
 今までろくに酒なんか飲んだことが無かったオレが、浴びるほど飲んでやろうと入った店はどこも予約でいっぱいだった。
 そりゃそうか、クリスマスだ忘年会だと、何かと忙しい年の瀬だ。
 気の利いた飲食店が空いているはずもない。


「本日はご予約いただいたお客様のみになっておりまして・・・」


 入り口で追い返される男の一人客は目立つ。
 みじめさだけが募っていった。

 仕方ないので、街外れのコンビニで強そうな酒ばかりを買い込んだ。
 ウイスキーにウォッカ、ジンに焼酎。
 興味も知識も無かったので、種類も銘柄もバラバラだ。
 世の中にこれだけ酔っぱらいがいるんだから、たぶん美味しいんだと思う。


「これからクリスマスパーティーですか?」


 親切そうなメガネをかけた店員の言葉が心に刺さる。


「・・・」

「よろしかったら一緒にフライドチキンはいかがですか?」

「いらないっ!」


 思った以上に声が大きくなってしまい自分でも驚いた。
 店員も驚いた様子ですぐに謝ってきた。


「すみません」

「・・・いや、その、頼まれてるのお酒だけだから」

「ありがとうございました」


 商品とお釣りを受け取ると、逃げるようにオレは店を出た。
 誰に頼まれたんだ、誰に。
 クリスマスイヴに仕事をしてる店員だって、面白くないのは同じだろうに。
 自分のちっぽけさに腹が立った。

 家に帰って飲む気なんかしなかった。
 誰が待っているわけでもないが、なんとなく帰りたくなかった。
 近くの小さな公園に寄ると誰もいなかった。
 あたり前か・・・考えられないほど寒い。

 震える手でウイスキーのボトルを開ける。
 ふわーっと甘い香りが広がった。
 なるほど、この香りに包まれるのは確かに心地いい。

 オレンジジュースでも飲むように、ラッパ飲みで瓶の半分程を一気に飲み干した。
 つもりだったが、口に含んだ半分以上を吹き出してしまう。
 服とベンチにかかったが、咳き込んでそれどころではなかった。
 なんだこりゃ!?
 胃と胸と口の中が燃える様に熱い。
 涙と鼻水と吐き出したウイスキーで上着をベタベタに汚しながら、なぜだか笑いが込み上げて来た。


「ははは・・・はは・・・くそぅ・・・」


 ・・・たぶん、泣いてたんだと思う。


 ・・・


 どれくらいの時間が過ぎただろうか。
 買った酒はすっかり無くなっていた。
 半分以上は飲んだが、残りはその辺りにぶちまけたり、頭からかぶった。
 文字通り浴びる様に飲んだわけだ。

 分かってる。
 どう考えてもマトモな奴のやる事じゃない。
 完全に酔っぱらってしまうと、ハメを外したそれらのバカげた行動はかえって心地よかった。
 たとえ、それがまやかしの心地よさだとしてもだ。

 髪なんか凍り付きそうだったが、身体は暖かだ。
 これが酒の効果か?
 ロシア人がウォッカをガブ飲みする理由が分かった気がする。

 オレはふらふらとした足取りで再びコンビニエンスストアに向かった。
 酒の追加を買うためだ。
 もっと飲まないとやってられない。

 向かう途中、人通りも疎らな裏路地を通った。
 正直、どこを歩けばコンビニに行けるのか分からなくなってきていた。
 売れてなさそうなスーパーマーケットの前でケーキを売る少女を見かけた。

 体に合っていないブカブカのミニスカサンタのコスチュームでケーキを売る少女。
 本来コスチュームを着るはずだった女の子がドタキャンしたか何かで、急遽、働かされている感が漂っている。
 それでも少女はキラキラと満面の笑みを浮かべながら道行く人に声を掛けている。


「ケーキはいりませんか?」


 イチャイチャしながら通りすぎるカップル。


「ケーキ美味しいれぅ!」


 目を合わせず歩き去るサラリーマン風の男性。


「お土産にケーキはいかがですか?」


 有名洋菓子店の手提げを持った親子連れは少女を横目に見ながら通りすぎる。
 それでも少女はにこにこしながら、道行く人に声をかけていた。


「ケーキはいりませんか? 美味しいケーキはいかがですか?」


 人通りが疎らなうえ、たまに通りかかる人は皆、無関心に通りすぎる。
 それは幼い頃に見た童話、『マッチ売りの少女』を思い起こさせた。


「お兄さん、ケーキいかがですか?」


 気が付けば、オレはその少女の前まで来ていたようだ。


「おい、ニセサンタ!」

「え?」

「全然ケーキ売れないじゃねーか。兄ちゃんが手伝ってやろうか?」

「違うれぅ。ニセサンタじゃなくてケーキと幸せを届ける本物のサンタクロースれぅ」


 半ば自暴自棄、半ばからかい半分で声をかけたオレに真剣な表情で反論してきた。
 眉を寄せて、恐い顔をしているつもりだろうが、ぜんぜん恐くねーぞ。


「ふざけんな、本物のサンタならオレを幸せにしてみろ」

「!?」

「ほれ、幸せにしてみせろよ」


 みっともない酔っぱらいが店頭販売の少女に絡むの図。
 サイテーだよ、オレ。
 まあいいや、もう生きる気力なんかなくなったんだ。
 へっ!
 内定取り消しでくたばるってか。
 どんだけみっともないんだよ・・・。
 頭ではわかっているのに、彼女を傷付ける言葉を止める事が出来なかった。


「うぅ・・・」

「出来ないこと言うんじゃねーよ」

「あぅ・・・」

「・・・決めた、そのケーキ食ってから死のう」


 オレのつぶやきが聞こえたのか、少女がはっといた顔でオレを見た。
 そんなキラキラした目で、クリスマスイヴに働かされてるって、どんだけ幸せなんだ?
 オレの気持ちなんか微塵も分からないだろ。


「だ・・・ダメれぅ」

「何がダメだ。一個、買ってやるって言ってんだよ」

「ダメれぅ」

「うるせーな、オレは不幸のドン底なんだよ!」

「えっ? えっ?」


 見知らぬバイト少女を困らせるつもりはなかった。
 でも、生まれて初めて酔っぱらったオレは自分の感情を抑える事ができなくなっていた。


「ちくしょう、人生最後の食べ物はクリスマスケーキか。幸せだわ、こりゃ・・・馬鹿らしくて最高だろ」

「・・・そんなのダメれぅ」

「ちゃんと金は払うって」

「ダメれぅ・・・」

「なんだよダメダメって、さっきから! 売れもしないケーキ買ってやるんだから感謝しろってんだよ!」

「あっ!」


 オレは1万円札を投げ捨てた。
 ついでに財布も放り投げる。
 なにが内定だ。
 なにが仕事だ。
 どうせ金だろっ!?
 こんなもんいらねーよ!

 今にも泣き出しそうな顔をした少女はオレが放り投げたお札と財布を拾い上げた。
 散らばった小銭を必死にかき集める。
 冷たそうな路上に膝をついて。


「お、おい・・・」

「お金を投げたらダメれぅ」

「余計なことするんじゃねえよっ! おせっかいもいい加減にしろ!」

「だってお兄さん、泣いてるれぅ・・・」


 少女は涙ぐみながらも一生懸命に笑っていた。
 オレに財布を手渡すと、オレが流しているらしい涙をサンタ服の袖でぬぐってくれる。


「クリスマスケーキを食べて幸せにならないとダメれぅ」


 驚いた。
 人の手ってあったかいんだな・・・。
 オレは少し落ち着いた。


「・・・だからニセサンタに何ができるんだよ。あんたがオレを幸せにしてくれるわけがない」

「ど、どうすれば幸せになれるんれぅか?」


 オレもたいがいだが、この子も相当に変わり者だ。
 こんな酔っぱらいの戯言なんて聞き流せばいいのに。
 頭おかしいのか?
 いや、おかしいのはオレの方か。
 いやいや、やっぱりこの娘もおかしいぞ。
 ケーキを売りつけさえすれば、そいつがどうなろうと後は知った事じゃないだろうに。


「そうだな、死ぬ前に一度やってみたい」


 最低だなオレ。
 泣かれるか、警察につき出されるか。
 どっちでもいいや。
 どうせ、オレはもうどうなったっていいんだから。


「・・・?」

「セックスしたいって言ってんだよ」

「・・・そ、それをしたら幸せになれるんれぅか?」


 聞いたことはあるが、よくは分からない。
 そんな顔をしている気がする。
 いや、とぼけているだけか。
 この歳で知らないわけがない。
 ミニスカサンタを任されるほど可愛い子が知らないなんてあるわけない。


「する気も無いのにそんな事、言うんじゃねーよ」

「うぅ・・・だけど死んじゃうのは絶対にダメだと思います」

「オレが死のうが生きようが、あんたには関係ないだろ!」

「あります!」

「・・・」

「さっきお兄さんは幸せにしてくれって言いました。死んでしまったら幸せにはなれません!」

「お、おま・・・」


 マジ天使か何かなのか?
 本気で頭、弱いのか?
 優しいとかいうレベルを超えてるぞ、おい。


「待っていて下さい。もう少しでお仕事の時間が終わりますから」

「ちょ! お前、本気で言ってるのかよ」

「本気れぅ」

「バカかよ! こんな通りすがりの、タチの悪い酔っぱらいの戯言を真に受けやがって・・・」

「だってお兄さん・・・泣いてました。ただの酔っぱらいさんとは違うって、苦しんでるってわかったから・・・」

「・・・」


 苦しんでるのが分かったから何だって言うんだよ・・・。


 ・・・


 オレは初めての泥酔もあってか、足がだるくて路地の隅に座り込んで少女の仕事を眺めていた。
 1個も売れなかった。
 それでも少女はずっと笑顔で声を掛け続けていた。
 そのうち、彼女はいなくなった。
 それでいい・・・。
 逃げな。
 こんな酔っぱらいのクズを相手にしたら、2度とあんな笑顔が出来なくなっちまう。
 いいんだ。

 ケツがつめてーな・・・。


「お待たせしました。・・・その、わたしちゃんと出来ないかもです・・・まだ、あの・・・」

「なっ!?」


 私服に着替えた少女が目の前にいた。
 サンタの衣装を脱いで、私服に戻った彼女はあまりにも幼く見えて、オレはハンマーで頭を殴られたような衝撃を受けた。
 こ、こんなに若かったのか!
 ヤバイ、本当に頭が痛い。
 半分は酒のせいだろうが。


「バカヤロウ! 失せろっ! 逃げろって言っただろうが!!」

「そ、そんなこと聞いてません」


 うん、言わなかったかもしれんな。
 考えてただけで。


「わたし・・・ちゃんと出来ないかも・・・」


 消え入りそうな声でさっきと同じ事をぼそぼそと言う少女。


「いいんだ。実は・・・オレもしたことないから、よくわからないんだ・・・」

「やっぱり・・・ダメれぅ」

「ああ、いいよ。最初からする気なんてなかったんだろ」


 いいんだ。
 聞いてくれただけで。
 ちゃんと仕事が終わったら姿を現してくれた。
 その優しさだけで十分だ。
 本当にもう何の未練もなくなったよ。


「はは、ありがとうな」

「絶対にダメれうっ!」

「分かったって。早く家に帰りな」

「セックスならします!」

「な・・・」

「ちゃんとします」

「・・・ぶっとばすぞ、このヤロウ!! そんな事、口にすんな!」

「でも、ダメなんれぅ」

「わけわかんねーよ! 頭おかしいのか、おま・・・」

「だって、セックスしたら死んじゃうんでしょ!? だって、ケーキ食べても幸せになれないんでしょっ!! だって・・・」


 少女は本気で怒っていた。
 可愛い顔で。
 澄んだ瞳から大粒の涙をぽろぽろとこぼしながら。


「お兄さん、死んじゃうんでしょ!! わ、わたし、えへへ・・・」


 顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、なぜか笑おうとしている。
 な、なんだ?
 マジでイカレたのか!?


「な、泣きながら笑うなよ・・・」

「か、悲しい、と、時は笑うのれぅ・・・それが勇気を・・・うわぁぁああああん」


 酔いも、目も覚めた気がした。
 オレはバカヤロウだ・・・。


「ごめんっ! ごめん、許してくれっ!」


 オレは地面に頭を付けて謝った。
 しゃくり上げる少女の泣き声を聞きながら、オレは自分が許せなくなって、何度もアスファルトの路上に頭を打ち付けた。


 ・・・


 しばらくして泣きやんだ少女は、オレに謝るのをやめてほしいと言ってくれた。
 オレは自分の気が済むまで地面に頭突きをしていたが、ちらっと見えた少女がまた泣きそうな顔をしたので止めた。
 ひどい聖夜だ。
 う、うぷ・・・


「気持ち悪い・・・」

「大丈夫れぅ?」


 オレが酒を浴びた公園に少女が連れてきてくれた。
 肩を借りないと歩けないほど、ふらついていた。
 深酒に加えて、頭を振り回したのでよけいにアルコールが回ったらしい。

 ベンチに座り込んだオレに彼女が水を差し出してくれる。
 可愛い人参の形をした弁当のフタがコップがわりだ。


「飲み過ぎた時には水分補給れぅ」

「たしかに喉は渇くよ・・・」


 オレは水をがぶ飲みした。
 少女は何度も何度も水を汲みに行ってくれた。


「はい、お水れぅ。事務所の先輩が飲み過ぎたらお水って言ってましたっ」

「ずいぶんダメな先輩がいるんだな」

「そんな事ありません。すごく素敵な人なんです。私が困っている時に側にいてくれました」

「・・・そうなんだ」

「私が泣いている時に、ずっと隣にいて話を聞いてくれました」

「良い先輩なんだな」

「先輩になる前の話です・・・道で・・・一人で泣いている私を助けてくれました。話をしたのもその時が初めてでした・・・」

「・・・」

「本当に悲しい時、誰かに隣にいてもらえるだけでどれほど心強いか知りました。だから今度は私の番」

「・・・だからオレを?」

「偶然かもしれません。何か理由があったのかもしれません。でも、お兄さんは私を選んだのです。助けて欲しいって」

「ケーキを売っていた君が、キラキラと輝いて見えたから・・・かな」

「輝いて見えました?」

「ああ、誰にも振り返ってもらえなくても、いい笑顔でいたよ」

「・・・笑顔が一番なんです。わたしは・・・一番大好きな自分になりたいんれぅ」


 そういうもんかもな。
 最初は天使かと思った、本気で。
 酔っぱらい過ぎか、オレ?


「ありがとうな・・・」

「クリスマスは誰もが幸せにならなくちゃいけないって言ってました」

「それも先輩が?」

「友達です。ネットの小説に書いてあったって聞きましたけど・・・うちにはインターネットがないのでよくわからないのれぅ」


 少女が少し恥ずかしそうに言った。
 インターネットってか・・・パソコンな。


「そうなんだ。オレは少し幸せになれたよ。それに、君が言うようにこの出会いに理由があるのなら・・・」


 いつの日にかきっと再び出会えるはず。
 なんか、そんな気がする。
 その時まで・・・。


「はい? 何ですか?」

「いや、前向きに生きるよ。元気を分けてもらえたから」

「はいっ! ・・・あ、ケーキのお買い上げありがとうございましたっ♪」

「ちゃんと食べてもっと幸せになるから心配しないでくれ」

「はい♪」

「もう、会うことはないと思うけど・・・」

「はい?」

「もし次に会ったら・・・絶対に君を・・・泣かせたりはしない」


 だめだ、眠くなってきた。


「助けて・・・くれた恩返しをする。約束・・・する」


 目がほとんど閉じてきてる気がする。


「君が一番好きな・・・君でいられるように、君を・・・守る。やく・・・そ・・・く」

「はい、約束れう♪」

「や・・・」


 ・・・


 どうやって帰ったのかも覚えていなければ、何をしたのかも覚えていない。
 ただ割れるような頭の痛みと、クリスマスケーキの甘い香りに包まれて目を覚ました。


「公園で酒を飲んだところまでは・・・記憶があるんだが・・・何でこんな大量のクリスマスケーキが???」


 どうやら酒はあまり体質に合わないらしい。
 これは深く反省をした方が良いだろう。
 ガンガンする頭でよく思い出そうとするが、はっきりしなかった。


「うーん・・・ケーキ売りのミニスカサンタさんに怒られる夢を見た・・・気がする」


 シャワーを浴び、ケーキを食べて家を出る。
 財布の中身がほとんどなかったからだ。
 ケーキに化けたっぽい。
 食べるものはケーキしかなかった。

 正直、途方に暮れるような状況だ。
 何もかもが裏目に出た。

 でも、なぜだろう?
 不思議と気分は晴れやかだった。
 失うものが何もないってのは、こういう楽な気持ちになれるのかもしれない。

 いつまでもうじうじしていたって仕方がない。
 さっそくアルバイト探しに出かけるとしようじゃないか。
 歩いていたら、ふと、あの公園の前を通りかかった。

 ベンチに腰かけて空を見上げる。
 限りなく青い空。
 仕事も、お金も、何にも無いけれど、可能性だけは無限に広がっている。
 この空のように。
 オレには見えないが、とびっきりの可愛い天使がそれを約束してくれている気がする。

 ちょっと社会に出遅れたかもしれない。
 でも、いいんだ。
 こうなって、オレは自分を見つめ直す機会を得たと思う。
 未来は誰にも見えない。
 だから、夢を持てるような仕事に就こうと思う。

 Go my way.

 自分の道を行けばいい。


「さてと、ハローワークでも行くか」


 ・・・


 数日後。
 この男は、幸運にも通りかかったビルの前で、真っ黒い男に会い、仕事を手にすることになる。
 サンタクロースが渡してくれたクリスマスケーキの効果かどうかは誰にも分からない。
 何せ、当の本人はどうしてケーキを大量に買ったのかさえ覚えていなかったのだから。

 だが、サンタクロースの方は覚えていた。
 ビルのガラスを拭いていた小さなサンタは、オフィスに入ると目を輝かせてつぶやいた。


「約束を守ってくれるのれぅ! わたしを守るために・・・ちゃんと来てくれたのれぅ♪」


 2人がどういう仕事をしているのかは、またの機会に・・・。


 Merry Christmas!!


やよマス 1話に続く

2011/12/23 初版

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