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トキめいてるじゃん! 〜冬の特別編〜 (2)
山崎かおり

 師走である。
 街は目まぐるしく行き交う人々でごった返している。
 ここ、武蔵ヶ丘商店街もアーケード全体をモールやらツリーやら、サンタクロースの人形やらで飾り付けられ、クリスマスソングが鳴り響いていた。
 いたるところに柊がぶら下がり、冬の装いで歩く人々は一様に楽しそうにしている。
 まさに、クリスマス一色に統一された感があった。

「よお、美和子ちゃんっ。明けましてメリークリスマス! な〜んちゃって、ぶっへっへっへっ」

 帰り道であるアーケード商店街を歩いている私に声をかけてきたのは、年のわりに頭頂部の涼しげな魚屋さん「魚八」の2代目、松本さんだった。
 天秤棒を担いでいるところをみると、どうやら配達の途中らしい。
 彼は、つまらない冗談を言うことでは、そりゃ商店街でも有名な若旦那。
 ズボンのポケットには競馬新聞、口を開けばウケようがないダジャレ。
 商店街の人々は口々に「魚八は2代目が継いだら、武蔵ヶ丘で魚が食えなくなる」と言っている。

「メリーさんのクリシミマスには、サンタクロースル。な〜んちゃって、わはははは。マグロも今年はヒレニアムってかあ」
「あら、若旦那。あいかわらずワケわかんないのね」

 そんな冷たい私の言葉にも、どこ吹く風といった表情でニコニコしている。

「つれないな〜。今日はいい魚が入ったんだよ。美和子ちゃんだって、きっと驚いちゃうゾ。ぎょっ! な〜んちゃって」

 商店街と私の心に木枯らしが吹き抜けた。

「こりゃ、漁師さんだってびっくりだね。思わずギョギョーってかあ、わははははは。ホントにおすすめなんだから」

 そう言って、去っていく松本さんの姿に私は思わず深い溜息をついた。
 その後も、商店街を歩く私に、次から次へと各お店から声がかかる。

「今日はね、ニンジンとコマツナが特売なんだ」

 ほんとだ、いつもよりずいぶんと安い。

「チーズカツレツを揚げてみたんだよ、どお、美和子ちゃん?」

 お肉屋さんの「マッスルミート」はよく手のかかった揚げ物を店先で売っている。
 ヒレカツにハムとチーズが挟み込んであるのか・・・おいしそう。

「美和子ちゃん、油汚れに強い洗剤が入ったよ。この時期、洗い物がたいへんだろ?」

 雑貨屋さんの遠藤のおばあちゃんは、同学年で同じ演劇部員の遠藤雅子さんの祖母だ。
 家事を手伝っている私をいつも気遣ってくれる。

「おおっ、みーちゃんおかえり。長持ちする電池でもどうだい?」

 ──────私にどうしろっていうのよ・・・。

 しかし、と私は思う。
 学校の帰り道に夕食のおかずや雑貨を勧められる中学生がはたして他にいるだろうか。
 そんなことを考えながらも、声をかけられる度に、にこやかに対応してしまう自分が、少し誇らしく思えてしまうのだった。
 夕食の買い物を終えて、自宅へと戻った。

 テレビゲームをしていた妹と弟が同時に振り返る。

「おねーちゃん、おかえりぃ」
「おやつ買ってきた?」

 2人の声がハモる。

  ──────いきなりそれかい・・・。

 それでも、私は小学生の2人(妹は2年生、弟は5年生だ)に微笑みかけて、さして広くない居間に上がった。
 部屋の隅にある洗濯物を見て、思わずテレビゲームに興じていた弟を小突く。

「な、なにすんだよ!」

 振り返った弟の満は口を尖らせた。

「洗濯物を取り込んでおいてって言ったでしょ」
「取り込んだって」

 そう言って、満が指さした先には、山のようになった洗濯物が積んである。

「取り込めってことは、畳んでおくこととセットだと思うけどな」

 私は溜息をつくと、買い物カゴを下ろして、洗濯物の山へと近づいた。

 ──────そう言えば、よく藤宮先輩が怒鳴ってるっけ・・・。

 “まったくオメーは気が利かねーんだからっ! オメーみてーな奴が、「ホウキを持ってきてくれ」って頼むとホウキだけ持ってくる典型になるんだよ。ホウキを頼んだらチリトリが必要になることくらい気が付くだろっ!”

  ──────いけない、いけない。取り込んでおいてくれただけでも助かるんだから。

 私が苦笑していると、妹の由美子がゲーム機から離れて、洗濯物の前にちょこんと座った。

「おねーちゃん、手伝うよ」
「おー、由美はいい子だねぇ。ゲームはもういいの?」
「うん。絵がちょっと恐いの」
「そっか」

 そんなことを話しながら、洗濯物を畳んでいると、満もしぶしぶながら隣に座った。
 ちまちまと靴下を裏返しだす。

「満、素直じゃん」

 私が言うと照れくさそうに笑った。

「まあね。ねーちゃんばっかにやらせるワケにはいかないからな」

 よくよく考えてみれば、最近の私は部活にも入り、家に帰るのが遅くなることが多い。
 まして、冬は陽が落ちるのも早い。
 そんな時にも、洗濯物は畳まれていたし、夕食も満が作ってくれている時が多かった。

「な〜にを生意気な。でも、ありがと。あのさ、カステラ買ってきたから、あとで食べよっか」

 2人が同時に頷いた。
 なんともいえない笑顔だった。


(3)に続く

2011/01/22 初版

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