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トキめいてるじゃん! 〜冬の特別編〜 (3)
山崎かおり

 クリスマス・イヴが誕生日なんて・・・絶対に損してる。
 そんな風に初めて考えたのが、いつだったかはもう忘れてしまった。

 私がお風呂からあがると、居間にいた父に呼び止められた。
 時間は夜の10時を少しまわったところだった。

「あ、お父さん、おかえりなさい。あれ? お母さんはまだ帰ってないんだ」
「ああ、今日も遅くなるみたいだな。調理師学校の講師というのも、なかなか大変なんだなあ。風邪でも引かないか、心配だよ」

 ケーキ屋を営む父は、ビールの栓を開けながら、一人溜息をついた。

「まだ、ご飯食べてないんでしょ? 今、作るから待っててね」
「満と由美子はどうした?」

 私が台所で、夕御飯のみそ汁を温め直していると、父がテレビのスイッチを入れながら訊ねてきた。

「満は部屋で宿題するって言ってたけど、何をやってんだか・・・。由美子はもう寝ちゃったわよ」

 今日、絶対にオススメだからと言って、魚屋の若旦那に買わされてしまったハマチのサクをさしみ状に切って、皿に盛りつける。

「サクは、さくさくっと切っちゃってね〜」

 若旦那のお馴染みのダジャレを父に投げかけてみたりしながら、食卓を整えていくのはけっこう楽しい。

「しかし、あれだなぁ」
「なーに、お父さん?」
「お前にはいつも苦労かけるねえ。けほけほ」
「おとっつぁん、そいつは言わない約束でしょ」

 若旦那の悪癖がたまに伝染したりもする。

 父がなんとなくそわそわしているのは、時期が関係しているに違いなかった。
 由美子にも満にも顔を合わせなかったとはいえ、せめてもの家族サービスを、と帰ってきているのだ。
 明日はクリスマス・イヴだから、本当は家に帰ってくる暇もないほど忙しいはずだ。

「そうだ、美和子。一日早いけどさ、誕生日おめでとう。これはプレゼント。あんまり高いものは買えなかったんだけど・・・」

 そう言って、父は巨大な段ボール箱を指さした。
 いそいそと食卓につき、みそ汁をすすり始める。

「ありがとう、何かな?」
「BS対応のフラット画面テレビだ。一応、最新型だぞ」
「・・・。う、う、うれしいなぁ」

 私の笑顔を見て、父は照れくさそうにハマチを頬張った。

 ──────あいかわらずだわ・・・。

 嬉しいには嬉しいのだが、なぜだろう?
 たしかに欲しいとは言ったが、はたしてこれが中学生の娘にくれるプレゼントなのだろうか。
 両親から愛されていることは分かっている。
 だからこそ、家の中のことはなるべく手伝いたいし、弟たちの面倒もみようと思う。
 いつも「しっかりとした長女」でいなければいけない。
 それに反して、うまく甘えることができない自分の不器用さに寂しさを覚えることもある。
 まさに今が、その時なのだが。

 去年は室内乾燥機、一昨年はグリル付き電子レンジ、その前は全自動食器洗い機・・・。
 何が欲しい、と聞かれると、つい、生活必需品を言ってしまう。
 素直な性格の父が、それにプラスして、「私に」マフラーなどを買ってくれることなどないと分かっている。
 そんな気を利かせるようなセンスはないのだ。
 それは分かっている。
 でも、2つはお願いできない。
 私だけのプレゼントもお願いできない。

 ──────さみしいな。

 夕食を食べ終え、再び職場へと向かった父を見送った後、私はようやくひと心地ついて、自分の部屋の机に座った。

 ずいぶんと部屋が冷えている。
 ヒーターのスイッチを入れて、窓の外の景色を眺めた。
 武蔵ヶ丘の夜景は、街の明かりとたくさんの星明かりで彩られ、私はとても気に入っていた。

「クリスマスかぁ」

 よくよく考えてみれば、この時期には両親とも忙しく、クリスマス・パーティーも誕生日会なども、このところずっとしたことはなかった。

 妹や弟の誕生日には、父が名前入りのバースデーケーキ(もちろん父の手作りだ)を持ってきてくれるのに、私だけはケーキどころか、パーティーだってやらない。
 父は何かと気を遣ってくれているみたいだが、料理学校の講師で飛び回っている母など、お正月になってから、“そういえば”なんて言ってくることもあったくらいなのだ。

「ひょっとして、貧乏くじ引いちゃってるってやつなのかな・・・」

 思わず呟いて、我に返った私は布団を敷こうとした。
 BS内蔵テレビの箱が邪魔だった。
 大きく書かれたメーカー名が滲んで見えた。

 ・・・何をセンチメンタルになってるの、こんなことぐらいで。
 私はもっと強いはずだわ。
 ・・・でも。
 でも、冬なんてキライよ。




 それでも朝は来る。
 眩しい日差しと小鳥達のさえずり。
 冷えた空気が心地よい朝だ。
 私は、朝食の用意をして、今日が終業式の妹と弟を学校へと送りだした。
 2人とも元気だ。
 今日、渡されるはずの成績表のことでプレッシャーなど感じていないらしい。

 がらんとしてしまった部屋の中で、なんとなくテレビを点けた。
 最新型ではない方のテレビを。
 ゆっくりと過ぎていく時間が、なんとなくうっとうしく感じられる。
 朝食の後片づけを済ませ、洗濯物を洗って干し終わる。
 部屋の掃除が終わっても、時計の針はまだ正午になっていない。
 主婦業に磨きがかかったようだった。
 そういえば、満も由美子もクラスの友達とクリスマス会をやるから遅くなるって言ってたな・・・。
 点けっぱなしのテレビからは、クリスマスを楽しむ人々の映像が流れていた。
 リポーターは口々にデートスポットを紹介し、なんとなくきらびやか(に見える)親子連れが楽しそうにカメラを横切っていく。

 ──────まるで、お城の舞踏会をうらやましがるシンデレラみたい・・・。

 思わず、溜息が出る。
 また、悲劇のヒロインを気取ってる自分の女々しさが嫌だった。
 魔法使いのおばあさんも、かぼちゃの馬車も来ないのよ。
 だいたい、あれはクリスマス・イヴのお話しじゃないわ。

 そんなことを考えていると、あまりのバカバカしさにちょっと可笑しくなった。

「幸せいっぱい、明るさいっぱいの『サンタが街にやってくる』でも流れ出せば、こんなくさくさした気持ちも吹っ飛んじゃうわ」

 そう思った。
 でも、テレビからクリスマス・ソングが流れ出しても、私の心はなぜか晴れなかった。

 玄関でチャイムのなる音がした。


(4)に続く

2011/01/24 初版

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