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トキめいてるじゃん! 〜冬の特別編〜 (6)
山崎かおり

 近所にある児童公園(通称:パンダ公園)で、今までのいきさつを話し終えたのは、11時を過ぎた頃だろうか。
 体格のいい男が、夜中に2人でブランコを揺らしているのはなかなかに異様な光景だった。

「なるほどな・・・。それで、家の前にいたのか」
「そうなんですよ、お父さん」

 鋭い眼光が、僕の両目を捉えた。

「君に“お義父さん”と呼ばれる覚えはないぞっ!」
「あ、いや、まぁ・・・」

 初めこそ、何者かと警戒されていたみたいだったが、同じ中学校の同じ部活仲間であることを分かってもらえると、藤倉さんのお父さんは少し安心したようだった。
 逆に色々と藤倉さんの学校での振る舞いなどを質問されてしまったくらいである。

「本当に君は、美和子の、その、なんだな。アレだよ、彼氏とかじゃないんだな?」
「はぁ。同じ部活の仲間です」
「そうか、ならいいんだ。それなら・・・」

 お父さんは、少しだけ寂しそうな、そして、安心したような顔で頷くと、腰掛けていたブランコをこぎ始めた。

「しかし、あれだろ、美和子の奴もあれで、なかなか可愛いところもあるし・・・。その、君も嫌いじゃないんだろ? わざわざ家に来てくれたくらいなんだし」
「そりゃあ、もちろんですよ、お父さん」
「だから、君にお義父さんと呼ばれる筋合いはないわっ!!」
「うわぁ。おっかないなぁ、もう」

 藤倉さんのお父さんは、「ふっふっふっ」と妙な声で含み笑いをしていた。

「・・・あ、あの、わざとやってません?」

 僕がそう言うと、少しすねたような表情で微笑んだ。

「娘が出来た時から、一度、このセリフを言ってみたくてね。ははは、とうとう言うコトができたよ」

 困ったお父さんだ・・・。
 彼はブランコから降りて、僕の正面に立った。
 えらく、神妙な顔をしていた。

「中瀬君といったね。わざわざ娘のためにありがとう。ウチは共働きをしているから、美和子はしっかりせざるを得なくてね。でも、よく考えてみれば、まだ中学1年生だったんだ」
「そうですね。藤倉さんはしっかりしているんで、ついつい頼りにしちゃってますけど、同じ1年生なんですよね。それなのに副部長までやってるんですよ」

 お父さんは、ギュッと口を結ぶと、不意に空を見上げてつぶやいた。

「そうか・・・。あの子は、美和子は学校でもしっかりしているのか・・・」

 藤倉さんのお父さんの気持ちが何となく分かった。
 でも、彼にできることは、今以上は何もないだろう。
 きっと、それがもどかしいんだ。
 本当は藤倉さんのことが可愛くてしょうがないのに、甘えさせてあげられないということが。
 僕は、藤倉さんのお父さんの役に立ちたいと思った。
 陳腐な言い方だが、素直にそう思ったのだ。
 職業人として家庭にばかり時間を割いていられないというプロの姿、そして、大切な娘を思う心配性の父親としての姿を見せてくれた。
 何より、僕を子供扱いしないで、大人の男性として話してくれているのが嬉しかった。
 だから・・・。

 ──────だけど、僕に何ができる?

 ──────このクリスマスの忙しい時期に、一体何の役に立てるんだろう。

 ──────ん? クリスマスか・・・。

「あの、お父さんはケーキ作りの名人だと聞いているんですけど」

 僕が勢い込んで聞くと、お父さんはにっこりと微笑んだ。

「名人かどうかはわからないけれど、今年もたくさんの予約をいただいたよ」
「それなら、もう1つ、今から予約を受け付けてもらえませんか。代金はなんとかします。人手がいるようなら僕も手伝います。お願いします!」

 僕は時間も忘れて、腰まで頭を下げながら、大きな声でお願いした。

「・・・それは」
「はいっ! お父さんの最高のケーキで、藤倉さんをお祝いしてあげたいんです。もちろん、メリークリスマスじゃなくて、ハッピー・バースデーって書かれたケーキで」

 藤倉さんのお父さんは、しばらく俯いていたが、やがて大きく息を吸い込んで言った。

「中瀬君、君ってやつは・・・。わかった。やってみようじゃないか。最高のバースデーケーキを作ろう」
「ありがとうございます、お父さんっ」
「ただな、これだけは言っておくぞ」
「はい」
「君にお義父さんと呼ばれる筋合いはないぞ」

 思わず、顔を見合わせて吹き出す。
 時計が12時を指している夜の公園に、2人の笑い声がこだました。




 明けて、12月24日。
 午前9時に、僕は武蔵ヶ丘商店街の中にある洋菓子店『KOMUGI』の事務所で目を覚ました。

「・・・そっか。手伝うって言って、そのまま付いて来ちゃったけど、けっきょく寝ちゃったんだ」

 甘くて、いい香りに包まれた店内には、保冷ケースに収まっているクリスマスケーキが所狭しと積み重ねられていた。

「おはよう。大丈夫かい?」

 ケースの向こう側から、藤倉さんのお父さんの声がした。

「すみません、寝ちゃったみたいで」
「なに、いいんだよ。実際のケーキ作りでは、素人は手伝いようがないからね」

 彼は、調理台の上のケーキと取っ組み合いながら、気遣ってくれた。
 ここからは、僕もがんばれるはずだ。

「配達と店番は出来る限り手伝います」
「そうか、ありがとう。たしか、パーティーはお昼からだったね。さて、今年一番の大物に取りかかるとしようか」

 僕が厨房に入っていくと、これでもかと言わんばかりの大きさのスポンジケーキが置いてあった。
 初めて見る大きさだ。

「すごいですね、これ」
「ただデカイだけじゃないぞ。必ず最高のケーキに仕上げてみせるさ。あと2時間あるからね。こりゃ、大仕事になるぞお」

 なんとなく嬉しそうな顔をしている。
 いや、きっと嬉しいんだ。
 毎年、このケーキを作りたかったに違いない。
 抜けるような青空の中、僕と藤倉さんのお父さんのさらなる戦いが始まった。
 借りた自転車の荷台に、箱詰めされたケーキをしっかりと固定させる。
 そして、びっしりと書かれたメモ帳の宅配リストをチェックした。
 これだけは、今日だけは絶対に成功させる。
 そう思いながら。


(7)に続く

2011/02/08 初版

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