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トキめいてるじゃん! 〜冬の特別編〜 (10)
山崎かおり

 幾く秒ほどの時が流れただろう。
 実際には、ほんの数秒であったのだろうが、中瀬にはずいぶんと長い時間に感じていた。昨夜、あれほど押すのに躊躇したチャイムを鳴らした彼は、ただひとつのことだけを考えていた。

“たのむ、藤倉さん! 家にいてくれ!”

 不安を胸に、2度目のチャイムを中瀬が押そうとしたとき、ゆっくりとドアが開かれた。

「藤倉さん、いてくれてよかった!!」

 そんな中瀬の言葉に驚いた藤倉は首をすくめた。

 ──────魔法使いのおばあさんにしては若いし、馬車にしては息が切れてるわ・・・。

「あら、どうしたの? 中瀬君」
「一緒に来て欲しいんだ。何も言わずに付き合ってくれ」

 中瀬はもどかしそうに藤倉の手を取って、走りだそうとする。

「ちょっと待ってよ。いきなり言われたって」
「頼むっ! 一生のお願いなんだ」

 必死に頭を下げる中瀬。

「・・・わかったから、ちょっと待っててよ。戸締まりしてくるから」
「よ、よかった・・・。待ってるよ」

 中瀬は、自分がかなり息が上がっていることに気が付いた。
 ここまで全速力で走ってきたのだ。
 不思議と疲れはなかった。
 みんなの思いを背負った彼には、疲労など感じられなくて当然だったのかもしれない。

 しばらくして戸締まりを終え、簡単に着替えをした藤倉がドアから出てきた。
 襟ぐりの広いセーターに、ベージュのマフラーをかけ、白いオーバーサイズのカーディガンを羽織っている。
 こげ茶色をした丈の長い厚手のワンピースが、彼女を落ち着いた雰囲気に見せていた。

 ──────可愛い・・・。

 いつも、制服姿しか見ていない中瀬にとって、私服を着ている藤倉が少し大人っぽく感じられた。
「・・・それにしても中瀬君。なんで制服着てるわけ?」
「・・・。色んなことがあってね。今は秘密なんだけど」

 家で暇を持て余しているよりはマシかも。
 そう思って、誘われるままに出かけることにした藤倉だったが、なんとなく悲しい気持ちになっていた。
 けっきょく、バタバタしているうちに今日も終わってしまうんだろうな。
 彼女の正直な気持ちだった。

 クリスマス・ソングの流れている、どことなく閑散とした感じのする武蔵ヶ丘商店街を、中瀬に手を引かれながら通り抜けていく。
 藤倉はどういうわけか、商店街の人達から声をかけられることはなく、それでいて、通り過ぎたあとに視線が集中しているような気がしてならなかった。

 ──────変な誤解をされてたら嫌だな・・・。

 彼氏が出来たのか、なんて思われていたらどうしよう。
 藤倉の考えはどんどん悪い方へと流されていった。
 2人は、商店街を抜けて、武蔵ヶ丘中学校へと向かう坂道のふもとまで来た。

「ねえ、中瀬君ってば。一体、どこに連れていく気なのよ」

 中瀬は前を向いて大股に歩き続けるだけで答えない。

「ねえったら!」
「・・・いつも部活の時には、僕は藤倉さんについて行くだけだった。なんか全部頼りっぱなしで、情けないけど、そうだったんだ。実際、僕は頼りないんだけど。だけど、今日だけは・・・」

 中瀬は振り向いて、藤倉を真剣な目で見つめた。

「今日だけは、僕を信じてついてきてほしい」

“・・・これって、告白!?”

 そう思う暇もなく、藤倉は中瀬に膝からひょいっと抱きかかえられた。

“お姫様抱っこ”

「ちょっと、中瀬君ってば、ハズカシーって! も〜、ちょっとバカバカ降ろしてぇ〜」

 一刻も早く、皆の前に出てもらいたい。
 そんな気持ちがはやったのか、中瀬は、顔を真っ赤にしてもがく藤倉をきつく抱きしめて、学校へと向かう坂道を思い切り駆け上がった。
 足をバタつかせる藤倉。
 かまわず走り続ける中瀬。
 2人に、冬の柔らかい日差しが降り注ぎ、遠く商店街からはクリスマス・ソングがメドレーで流れてきた。

“なんてことのない、人それぞれのストーリーが、どこかで交わる瞬間。人は思いっきり輝くことができる”

 中瀬はそう感じていた。
 そして、彼にとって、今がまさにその時だった。


(11)に続く

2011/03/08 初版

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