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モンスターハンター3RD・SS 〜笑顔の靴下〜 (14)
大和武尊

 背中に何匹ものアイルーを背負った初老の女性が、荷ほどきして椅子に腰掛けた。
 もうあたりは真っ暗だ。
 ランプに火を点けて、アイルー達に「あまり遠くに行っちゃいけないよ」と声をかける。
 のんびりと木製テーブルの上に登録書類を並べて店開きを始めた。
 彼女は村の北方に自宅があるのだが、この広場の一角にしばらく店を構えようと考えていた。
 本当なら夜には店じまいして、自宅に帰るところだが、今夜は特別だ。

(あんな話を聞かされたら、居ても立ってもいられないからねぇ)

 ス・・・

 突然、正面にある家の戸が音もなく開いたかと思うと、一瞬だけ男の顔が出て、左右を確認した。
 かなり太い筒も顔と一緒に出て左右に動く。
 バリケード・ポジションで索敵行動をする兵士のそれだった。
 険しい顔で素早く走らせている目が彼女を捉え、視線が合う。
 次いでポカンとした表情になった。

「おやまあ、ハンターちゃんかい?」
「は、はぁ・・・」

 男がこれ以上ないくらい気の抜けた返事をする。

「黒い肌、顔に傷、ボサボサ髪。リオレウスをかわいいって思えるなら、まあそこそこかわいい・・・ふむふむ」
「な、なんですか?」
「あんたがハンターちゃんだね」

 初老の女性は、自分をネコバァだと名乗った。


 ・・・


「ネコバァ・・・さん?」
「そうそう。ハンターちゃんにお供アイルーの世話してやろうと思ってねえ」

 自宅の前で店開きをしたネコバァが唐突に切り出した。
 確かにあたりはアイルーだらけで、寝転がったり、水筒から水を飲んだりしている。
 軽装鎧の音源も分かった。
 お供アイルーが着る小さな鎧が立てる音だったのだ。
 ランプの明かりのみで、よくは見えないが、鮮やかな緑色に塗られた木製の鎧や兜を、ほとんどの猫人族が着ている。

「あの、レウスがどうとかってのは・・・」
「ああ、いいのいいの。どうだいハンターちゃん。旅のお供はいらんかぇ?」
「この地はまだ不慣れですから、案内人が欲しいとは思っていましたが・・・」

 着いたばかりだし、すぐには考えてなかった。
 そんな感じの返答だ。
 夜にいきなりというのもあるだろう。
 ネコバァは急かすことなく、おいでおいでと手招きした。

 ディックスは一度、首を引っ込めると

 ガラン、ガシャ、ドン、ジャラジャラジャラ

 凄まじい音を立ててから、今度はサンダルを履いて、表に出てきた。
 明らかに武器や火器が立てる金属音だった。
 何事かと耳をそばだてるアイルーまでいる。

「戦争にでも行くところだったのかぇ?」
「え? いやまあ、ちょっと・・・外から音が聞こえたので、地元の人だったら仲良くしておこうかと、ハハ」
「あたしゃ、撃たれるかと思ったぞぇ」

 冷や汗をかきながらディックスは、テーブルの前に立った。
 普段からぶっきらぼうな物言いで、必要最低限の事しか口にしないが、年配の人やギルドの人間には敬意を払った言葉遣いをするのが常だ。

「まあいいさね。仲介料は連合通貨か王国貨幣で1000から1500。手練れのアイルーになるほど料金は上がるけぇの」
「初めてなんで、どの子がいいとか分からないんですよ」
「そうかい? それじゃあ、最初はあたしが選んでやろうかね」
「いやでも、いきなりってか、すぐってのは無理をさせてしまうのでは・・・」
「無理じゃないよ。良い子がいるけぇ。登録するからハンターちゃんの名前を教えておくれ」

 まあ、いいか。
 ディックスは思った。
 まったく分からない地方に来た以上、案内人はいずれ必ず必要になる。
 正直な話、一人ではキツい依頼があるかもしれない。
 バックアップは欲しいところだ。
 ずっと一人で狩りをしてきたが、たまに限界を感じる事もある。
 今日、会ったような気さくな連中なら、道中も少しは楽しく感じるかもしれない。
 ディックスは、意外に押しの強いネコバァに観念した。

「ディックス・バッファラント。元王立軍所属、王都方面第2遊撃隊。現在はハンターギルド公認ハンティング・スペシャリスト、ランク6。登録番号はE794M864・・・」
「軍隊じゃないんだから、そんなにしゃっちょこばらないでおくれ。えーと、デックスちゃんね」
「は、はぁ・・・(デックスて・・・)」

 そんなんでいいのか。
 ギルドが保証している以上は、仲介業者の身元確認なんてこんなものなのかもしれない。

 わざわざ元の所属を明かしたのは、軍とギルドの中が極めて悪いからだった。
 今はギルド側の人間だが、元々は犬猿の仲である軍にいたという事をはっきりさせておけば、アイルーを選ぶ際の手助けになるかもしれないと考えたのだ。
 軍人嫌いのアイルーがいるかもしれない。
 そんな事を考えながら、ディックスは指示されたところへサインをしていった。

「うん、これでハンターちゃんの登録は終わりだよ。それじゃあ、そこのアイルーちゃんおいでおいで」

 巨大な背負い袋にしがみついていた1匹がとてとて走ってきた。
 腰までお辞儀をする。

「よろしくお願いしますニャ」
「ん、ああ・・・」

 まだ書類を眺めていたディックスは、生返事をしたあとでランプに照らされた小さい猫人族に目をやった。

「こちらこそ、よろし・・・え? あっ! お前、こんなところで何を!」
「ニャ・・・」

 メラルーカラーの猫人族は、昼間に会ったソロだった。
 兜をかぶらず、鎧も着ていない。
 シビレ罠だった缶を大事そうに抱えたまま、ディックスを見ていた。

「今日の夕方頃だよ。ギルド公認のハンターが保証人になってねぇ」
「集落はいいのか・・・?」
「ニャ・・・」
「い、いや、すまん」

 野生アイルーの集落に帰るという事は、仲間の元へ帰るという意味ではない。
 ひとりぼっちになりに行くという意味なのだ。

 身の上話を聞いて、それと分かってはいたが、未登録のアイルーを勝手に連れ回すわけにも行かず、そっけなく別れたのは他ならぬ自分だったではないか。

 第一、アイルーの意志を聞いていない。
 もう、お供アイルーに未練はないのかもしれない。
 そう自分に言い訳しながら。

 分かっていたはずなのだ。
 だから、夢は捨てるな、などと偉そうに言ったのだ。
 ディックスは奥歯が砕けるほど歯ぎしりした。

<軍事作戦じゃなければ、モンスター相手じゃなければ、俺はどうしようもないチキンだ>

 ディックスは所在なさげに立っているアイルーを見ながら、己の未熟さを呪った。

「それじゃアイルーちゃん。名前を教えておくれ」
「ニャ?」
「登録しないといけないけぇ」
「・・・」
「ほれ、アイルーちゃんの名前を教えておくれ」
「ボク、あだ名しかニャい・・・」

(え?)

 そんなバカな話があるか・・・。
 文化を持っている種族は、人型であれ、動物型であれ、個体識別は外見と名前でするものだ。
 ましてやアイルー族なら、かなり人間に近い名前を持つ者も多い。
 あだ名しかないって・・・。

「おやまあ、そうかい。それじゃ、あだ名でもいいよ」
「・・・」

 これまで猫人族に出会った事は何度もあった。

「はじめまして、ケマリっていうニャ」
「こんにちは、ダンガンって呼ぶニャ」

 彼らは必ず初対面で名乗った。
 だが、このアイルーだけは名乗らなかった。

(いや、名乗れなかったんだ・・・)

 自分の名前を知らないし、付けてももらえなかった。
 もちろん、あだ名で自己紹介してくるアイルーはたくさんいた。
 それも名乗れなかったのは、言いたくないあだ名だったからなのだろうか?
 集団生活は、時に酷なものだ。
 本人が恥ずかしいと思うあだ名を付けられてしまう事など珍しくない。

 うつむいているアイルーを見て、ディックスは思い出していた。

 南方生まれのディックスは、砂漠焼けしていなくても肌が浅黒い。
 故郷では“誇り高い鳥”を意味するディックスという名も、所が変われば意味も変わってくる。
 火の国では、“焦げた甲板”だのと呼ばれてよくからかわれたものだった。
 軍に入隊してからはもっとひどかった。
 遊撃隊を恐れた敵軍兵士から、黒い殺戮者と呼ばれ、それは本国にも伝わる事となる。
 命を賭けて守っている市民からも“戦場で何をしたのか”と恐れられた。
 賑わっている酒場に入れば、あからさまに客が減っていき、祝いの席には呼ばれなくなっていく。
 同じ部隊だった仲間や、退役軍人会の皆だけが、気にするなと言ってくれたが、いつしか一人で行動するようになっていった。
 彼は顔や身体に残る傷跡だけで、怖がられるのに慣れていたわけではなかったのだ。

<自分はこの苦しみを知っている>

 しょんぼりとうつむいていたアイルーが、意を決したようにネコバァの顔を見上げた。

「ボク、皆から・・・」
「なんだい?」
「ボク・・・」

(言わせんのか? おい、このチキン野郎! 言わせるのかよっ! 王国随一の特殊強襲部隊にいたそこの貴様だよ。過去の肩書きだけが誇りか? 戦闘能力以外は能なしか? こんなに小さなネコの名誉も守れずにハンター様ってか?)

 アイルーは泣きそうになりながらも、決意に満ちた表情をしていた。

(プライドと引き替えでもお供になりたいって言ってんだぞ。他の誰でもない。貴様のお供になりたいって言ってくれてるんだよ! 生死を共にする仲間になってくれると、覚悟を決めてくれたんだよ!! どのツラ下げてプロのハンターだって名乗れるんだよ!!!)

「ボク、ソ・・・」
「ソ、ソックスだっ!」

 ディックスはアイルーの前に出て、ネコバァに詰め寄った。

「え?」
「ニャ?」

 ネコバァの茶色い瞳と、アイルーの蒼い瞳を交互に見たディックスは、もう一度、はっきりと言った。

「ソックスって呼ばれてた」
「ソックスって、靴下のソックスかぇ?」
「そう、ほら、こいつ手足の先だけ白いんだ。たっぽ履いてる」
「そう言やそうだねぇ」
「だから、あだ名はソックスだったんだ。俺はそれを聞いて、聖ニクラウスが聖なる日に希望と願いを入れてくれる靴下と同じあだ名だなんて格好いいって思ったし、俺が生まれた国では、ソックスは獅子を束ねる猫族の王の名前で、これまたイカシてるって思ったんだ」
「・・・」
「本人はメラルー族に似てるって気にしてるみたいだけど、よく見るとお腹も少し白いから、俺はぜんぜん違うと思うんだ。な、なんとなればメラルーのフリをして潜入するって手もある し、まあ、そんな作戦があればの話だけど、夜間の隠密行動なら、この子の毛色は始めから迷彩だ。お、俺も肌が黒いから素っ裸になって目と口を閉じてれば、2人でいつまでも見つからないし・・・」
「・・・」
「ああ、そうだ! お供装備のジンオウネコシリーズなんか似合うと思うんだ。ほら、黄色に青緑のワンポイントが入ってるから、色的にちょっとふつーのアイルーカラーだと浮いちゃうだろ? この子の黒い毛ならきっと似合う。それに電撃罠を仕掛けるのがものすごく上手いから、  そこらへんもピッタリだと思うんだ。なんなら今から2、30頭ほど雷狼竜ブッ殺して来て・・・」
「わかったわかった」
「ほ、本当なんだ。いや、本当です」

 早口にまくし立てたディックスを手で制したネコバァは、アイルーに向き直った。

「アイルーちゃん」
「はいニャ」
「ソックスって呼ばれてたのかい?」
「・・・」
「それじゃあ、登録名はソックスでいいかい?」
「ニャ?」
「今回は1回だけ、名前を変えてもいいよ」

 アイルーはネコバァを見た。
 ニコニコしていた。

 ディックスを見上げると、ぜえぜえと肩で息をしている。
 おそらく、こんなに一度にしゃべったのは生まれて初めてなのだろう。
 目を白黒させながら、「もっとなんか、こう、かっちょいい名前にしろ」と囁いていた。

 アイルーはネコバァに向き直った。

「ボク、ソックスがいいニャ♪ ディックスに似てるニャ♪」
「ちょ!」
「なら決まりだね。登録名はソックス」
「はいニャ♪」
「知り合いみたいだし、仲介料はいらないよ。あたしゃ仲介してないんだからね」

 ネコバァは記録だけして、本当に仲介料を受け取らなかった。
 さあさ、今日はもう店じまいだねぇとか言いながら、片付けを始めている。

(なんだって、こんな時間に店開きしたんだ? しかももう閉店って・・・)

 ディックスは首をひねった。

 ちょんちょん

 アイルーがディックスのやたら太い足をつっついた。

「ん? あ、ああ、良かったのか、本当に?」
「はいニャ」
「まあ・・・お前が良いならそれでいいんだが・・・」

 アイルーがまたぺこりとお辞儀した。

「改めましてダンニャサン。ボクはお供アイルーのソックスですニャ。よろしくお願いしますニャ」
「ああ、よろしく。俺はハンターのディックスだ」

 礼儀正しくお辞儀し合っている1人と1匹を見つめて、ネコバァはずっと微笑んでいる。

「良かったねぇ、アイルーちゃん。もうひとりぼっちじゃないね」
「はいニャ♪ これからはふたりぼっちニャ♪」


(15)に続く

2013/08/27 初版

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