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学院騎士 サンガイオン (11)
大和武尊

 学校に向かおうと外に出ると、見慣れたリムジンが停まっていた。
 昨日とは別のモデル。
 今日は爆音を轟かせて走る気はないらしい。
 いつもは真っ先に声を掛けてくれる静ちゃんは、お迎えの車の前で乗るのを躊躇っているように見えた。
 運転手の蘇我さんに何かを相談しているようにも見える。

 昨日の今日で、静ちゃんと言えば弁当の件が思い浮かぶわけだが、オレは弁当箱を洗って返そうと思っていた。
 次の朝・・・つまり、今だ。
 だが、昨日のうちに御前家の使用人が受け取りに来たとかで、すでに弁当箱はなかった。
 さすがと言えばさすが。
 一分の隙もない対応は良家を感じさせるものがある。
 オレも見習おうと思う。
 アクティヴに行動する人になるんだ。
 これまでのオレなら、静ちゃんと蘇我さんが深刻な顔をしていても、挨拶だけしてそのまま登校していただろう。
 今日は違う。
 自分に言葉を向けられてさえ、ロクに反応しない人間でいるのはもう卒業するのだ。

 とは言え、これまで自分から話しかける事などほとんどなかったオレ。
 けっこう勇気がいる。
 皆、こんな苦労してるのか?
 思い切って声をかけたら頭の中が真っ白になりそうだ。
 そのうち慣れるような気もするが・・・。

「おはよう、静ちゃん、蘇我さん」

 2人が同時に振り返った。
 驚かせてしまったらしい。

「おはよう、タケルくん」
「山本様、おはようございます」

 ぎこちなく挨拶を返してくる2人。
 どうしたんだろう?
 何か面倒なことでも起きたんだろうか。
 ひょっとしてオレの弁当・・・なわけないか。

「どうしたんだい?」

 珍しく曇った表情で俯いていた静ちゃんだが、意を決したようにオレの目を見た。

「実は気になる事があって・・・」
「学校の事かな?」
「そうなの! さすがね、タケルくん」

 静ちゃんが一転して明るい表情になる。
 これこれ。
 やっぱり静ちゃんは輝くような笑顔じゃないとね。

「お嬢様、山本様にもお乗りいただいて車中で相談されてはいかがでしょう」
「ありがとう蘇我さん。タケルくん、相談に乗ってもらえるかしら?」

 え、いきなり相談事?
 オレも登校するところ・・・まあいいか。
 静ちゃんに何かお願いされるなんて、幼稚園の頃に花火を持つのが怖いから変わりにやってって言われて以来だもんな。
 一瞬、戸惑ったが、オレの顔の変化を見て取った蘇我さんが、後部座席のドアを開けてくれたので乗る事にした。

「じ、じゃあ失礼します」
「山本様、お嬢様をお願い致します」

 乗り込む時に、蘇我さんに囁かれた。
 どこか心配そうな顔をしているので、何かあったのは確かなんだろう。
 御前家の経済力や人脈を使っても解決できない事をオレに解決できるとも思えないが・・・。

 リムジンがスルスルと走り出すと、静ちゃんが遠慮がちに口を開いた。

「タケルくん、あのね。学院の名前が変わったの」
「そうなんだ」

 昨日の弁当のお礼でも言おうと思ったんだが、それどころではないらしい。
 学校の名前が変わったくらいで青ざめなくてもいいような気もする。

「私立ク・リトル・リトル学院・・・」
「え?」
「今度の学院の名前」
「マジでっ!?」
「うん・・・」

 なんてハイブロウな名前なんだ。
 ちょっと思い付かないぞ、ふつー。
 思い切りストレートに旧支配者の名前が入っているような気がするんだが、気のせいか?

「ず、ず、ずいぶん変わった名前になったね」
「理事長がアメリカの恐怖作家さんのファンなんですって」
「そ、そっか〜〜」

 ついつい返事が棒読みになる。
 いくらラヴクラフトファンだって、学校に付ける名前じゃない。
 犬に付けた名前だとしたって、聞いたらビビるだろう。

「それとね・・・校則がいくつか変わったの」

 まさかそれもブッ飛んでるのか?
 校則でふつーじゃないってなると、制服がバニー姿になるとか、鞄がランドセルになるとか、語尾はすべて「ニャ♪」にする事とかじゃないだろうニャ!?
 ってかオレは変態か・・・。

「月曜日にお祈りがあるのは変わらないんだけど・・・」

 おおぅ、静ちゃんが微妙な顔でこっちを見ながら話している。
 バレたか?
 バレたのか!?
 オレって考えてる事が顔に出るらしいからな・・・。
 それにしても、さすがはミッション系。
 お祈りがあるんだな。
 やはりで新約聖書にある「こう祈りなさい」ってガイドに沿っているんだろうか。
 聞いてみたいところだ。

「マタイによる福音書6章9節から13節で締めくくるのかな?」
「すごーい♪ タケルさんどうして知ってるの?」
「い、いやまぁ、なんとなく」

 静ちゃんにキラキラした笑顔が戻ってきたのはいいんだけど、知っていた理由はとてもじゃないが言えない。
 中学の時、2人で話せないかって同級生の女の子に言われて、初デートじゃあ! と気合いを入れたわけよ。
 そうしたら、その子はクリスチャンで熱心に勧誘されただけだった、と。
 半年くらいは仲良くしていただろうか。
 会う度に6時間ぐらい話に付き合ったもんなぁ・・・。
 何かと言えば聖書からの引用が会話に入って、ある程度、覚えてしまったのは極秘事項と言えよう。
 別に隠さなくても良いような気はするんだが、なんとなく格好悪い気がする。

「今までは聖書に書いてある通りにお祈りをしていたの」
「あ、内容が変わったとか?」
「うん・・・“いあいあ はすたあ ぶるとらん ぶるとらぐるん・・・”って・・・」
「ブッ!!」

 何を招来するつもりだ!
 ポナペ沖に沈んでるアレか!?
 タコ八っちゃんに似て非なるクトゥルフの眠りでも妨げようってのか!?

「だいじょうぶ?」
「大丈夫、大丈夫。ちょっと正気度を失っただけだから」
「?」
「いや、こっちの話」

 まったく・・・新しい理事長ってのはイカレてんのか?
 温室育ちの静ちゃんが学校に行くのを躊躇うのも分かる。

「それからね、今まで活動が非公認だった部活動が昨日、急に認可されたの」
「・・・(激しく嫌な予感がする)」
「黒魔術研究会と呪術同好会とダゴン秘密教会」

 ちょっと待ていっ!
 最後のはナンだ、最後のは!?
 秘密結社そのものじゃないか。

「ちょっと変わったってだけだから、そんなに心配する事ないよ」

 オレは無理矢理、笑顔を作って静ちゃんに言った。
 かなり引きつっていたとは思う。
 静ちゃんがそんなに心配する事ないと思うのは本当だ。
 オレはこれ以上ないくらいに心配だが・・・。

「実はね、新しい校則では理事長室に入ったらいけないって事になっていたんだけど・・・」
「入っちゃったの?」
「私、前の通りだったら理事長室の掃除当番の日だったから・・・」

 そんなのは大した事ないんじゃないか?
 こんなに可愛い子がわざわざ掃除してくれるってんだから、オレだったらドア全開でお願いしまーす! ってところだけどな。

「うふふ、タケルくんのお部屋だったら毎日お掃除してあげるよ」
「うんうん・・・って、何で考えてる事が分かったの!?」
「ナイショ♪」

 顔に出てたんだな・・・。
 くそぅ!
 オレの顔面はホワイトボードか。

「厳戒態勢の首相官邸に入ったわけじゃあるまいし、そんなの気にすることないって」
「でも・・・理事長が黒いローブを着てて、壁に向かってぶつぶつしゃべっていらしたの」
「・・・」

 どんだけステレオタイプな秘密結社の雇われ総帥だよ・・・。
 ま、まあでも見つかってなければ、さしたる問題はないはず。

「私、びっくりしてしまって、すぐに謝って退出したんだけど・・・ちょっと不思議でしょう?」
「そ、そだね・・・」

 イヤ、不思議どころかヤバ過ぎです。
 バレてるし。
 静ちゃんはお嬢様過ぎると思う。
 学校名も変えたわけだし、理事長が冗談でやってるようには思えない。

「ちょっとだけ学院に行くのが恐くなっちゃって・・・」
「うーむ」
「通学前にごめんなさい、タケルくん」
「ん? ぜんぜんいいんだよ」
「相談に乗ってくれてありがとう」

 おいおいおいおい、何だってそんなに顔を近づけてお礼を言うかな!
 こんなにドアップで見ても可愛いんだなやあ。
 めんこくってめんこくって、オラ、ドキドキしっぱなしだあ。

「私も共学が良かったなぁ・・・」
「お、女の子が憧れるお嬢様学校じゃないか。共学って公立が多いし、そんなに変わらないと思うよ」
「うん・・・」
「まあ、理事長室はないけどね」
「共学だったらタケルくんと一緒に・・・」
「え?」

 静ちゃんのぱっちりした目がすぐ近くにあった。
 瞳にオレが映っている。
 女の子の目ってこんなに潤んでるのか・・・知らなかった。

 キキィィィィ! ギャッギャギャギャギャ!!

 タイヤのスリップ音に続いて、アンチスキッドブレーキの断続的な突き上げがシートに伝わってくる。
 若干、リバースギアにも入ったようだった。

「きゃっ!」
「はうっ!」

 突然の急ブレーキに、静ちゃんとオレは同時に悲鳴を上げた。
 蘇我さんの運転とは思えない、完全なフルブレーキングだった。

「・・・失礼致しました。お2人ともお怪我は・・・」

 ルームミラー越しに見える蘇我さんの額から血が出ている!?
 車自体は何にも衝突してないので、エアバッグが開かなくてハンドルに顔をぶつけたのか!

「私達は大丈夫です。それより蘇我さんが大怪我を!」
「うう・・・」

 いや、静ちゃん・・・。
 あんまり大丈夫じゃないです。
 つんのめった拍子にキ○タマ握ったでしょ。

「静ちゃん落ち着いて。蘇我さんこれを」
「ありがとうございます、山本様。ハンドルに顔をぶつけましてございます」

 オレが渡したハンカチを受け取りながら、蘇我さんが痛そうに顔をしかめた。
 そんなお上品に流血の説明をしてる場合じゃない。
 車内では3人とも真っ青な顔をしていた。
 蘇我さんも静ちゃんも驚いて声が出ないようだ。
 オレは気が遠くなりそうだった。
 静ちゃん、いい加減に手を離して・・・オネガイ。

 それにしても何が起きたんだ?
 蘇我さんが車外に出ようとしているので、視線の先を追うと誰かがいるようだ。
 飛び出したのか?
 人身事故にはなっていないようだが。

 よく分からないので静ちゃんを落ち着かせつつ、状況を見守った。
 車の前に飛び出してきたのは、目立つことこの上ないクリムゾンレッドのローブを着た人達らしい。
 すっぽり被っているて、フードの下には能面のようなお面を付けた4人。
 立ち塞がっている。
 かなり不気味だった。

 表に出た蘇我さんが4人の外見に物怖じせずに声をかける。

「お怪我はございませんか・・・ぐあ!」

 ローブの能面野郎がいきなり蘇我さんを殴りつけた!?
 見えないほどの素早い動作で殴られた蘇我さんがボンネットの上に伸びてしまう。
 完全にKOされている。
 見たところ、ハードチューンのマシンに乗っててもかなりの横Gに耐えられそうな太い首をしている蘇我さんが一瞬で・・・。
 4人はリムジンの前後左右に展開した。
 知らない人間に取り囲まれるなんて、そうそう経験しない事だが、こんな連中が相手となるとかなり恐い。
 静ちゃんは少し震えながらオレの手をきつく握っていた。
 大丈夫だよ、と耳元で言いながらオレも手を握り返すが、実はオレも自分の震えを抑えるので精一杯だった。

 コンコン・・・。

 静ちゃんが座っている側のウィンドウがノックされた。

「きゃあああああああああっ!」

 後部座席をのぞき込んで来た、ローブを着た能面があまりに不気味だったのか、静ちゃんの身体から力が抜けた。
 気絶!?
 ぎゅっと目をつぶっていたのに、ノックの音に気付いて外を見てしまったようだ。

 静ちゃんと蘇我さんが・・・。
 お、お、オレがしっかりしないと。
 自分を奮い立たせようとしていたら、ドアが開いて車外に引きずり出された。
 もの凄い力だ。
 左腕を引っ張られたのだが、ぜんぜん腕を引くことができなかった。

「や、やめろ! 何だ、何をするんだ」
「想定外だな・・・」

 ぜんぜんこっちの話を聞いてない。
 他の3人も集まってきた。
 異様な雰囲気だった。
 いきなりの暴力、そして、この威圧感。
 ただのコスプレ集団ではないのが分かる。

 ───まともな連中じゃない。

 半ばパニック状態になっていたが、オレはそれだけ理解する事が出来た。
 高級外車を狙って身代金を目当ての営利誘拐をするような安っぽい悪意じゃなかった。
 動きに無駄がない事は荒事にド素人のオレでも分かる。
 そう、ド素人にさえ見て取れるほどの行動だから、余計に恐ろしいのだ。
 はっきりとした目的があるような、よく訓練された集団・・・ローブの下には武器も潜ませているだろう。

「誰も抵抗してないだろ。落ち着いてくれ」
「学院の制服を着ていない・・・男だな、当然か」
「・・・」

 人間は極限状態で危機に直面すると、異様に頭の回転が早くなると聞いたことがある。
 今のオレがそうだった。

 当たったのだ。
 静ちゃんの杞憂が。
 こいつらはク・リトル・リトル学院の者だろう。
 例の校則違反が問題なのか、それとも他にも変更された校則があって、学院内での事を他人に話してはいけないのか。
 いや、違う。
 その場合には、全生徒が監視や盗聴をされていなければおかしい。
 オレは、今さっき、車内で聞いたのだから。
 だとすれば理事長室での一件か。

「恐怖に怯えながらも、あらゆる可能性を考えているな」
「彼女は見ただけだ。本当だ。温室育ちなんだ。誰にも言わない。何ならオレが口止めする。ちょっと不思議だったとそう言っていただけだ。口外したりはしない」

 恐怖感も手伝って、オレは早口にまくしたてた。

「ほう? 事態を正確に把握できるか、この状況で」
「頼む。解放してやってくれ。蘇我さんだって、殴られたことを大事にしたりはしない」
「ふっふっふっ・・・御前 静は知り過ぎたのだ。再教育せねばならん」
「なっ!!」

 何言ってるんだ!
 再教育だって!?
 ヤバイ!
 このままではかなり危なそうだ。
 ってか、たぶんかなり危ない。
 オレはどうなってもいい。
 この2人を逃がさなければ・・・。

 その時、オレを引きずり出した奴がローブを大きく広げた。
 棒???

 ビュッ!

「おわああああああ!」

 な、何だ!?
 本物の刀じゃないか。
 真剣だ!!
 とっさに後ろに飛び退いたが、ネクタイがすっぱり切り落とされている。
 背中にリムジンのひんやりした感触が伝わってきた。
 これ以上は下がれない・・・。
 こ、こ、殺されるっ!!

「我が居合い抜きをかわしたか」
「やめてくれっ!」

 最悪、オレはどうなってもいい。
 2人にひどい事をしないでくれ!
 くっそ!
 何でこんな事になったんだ。
 なんだよ、コレ!?
 意味分かんねーよ!

「知り過ぎた愚民は再教育の必要もない・・・死ねい!」

 ズドッ!

 鈍い音がした。
 真っ赤に焼けた鉄の棒でも押しつけられたような感覚。
 ビリビリと服が切り裂かれる音と、ブキブキと骨付き肉を引きちぎるような音。
 ゼリーかなんかが入った麻袋をカッターで裂くような感じ。
 頭の中では“ギャアアアアアアアアアア”と絶叫していたような気がする。

 日本刀を振りかぶった能面野郎を見ていたはずなのに、視界はすぐ足下を見ていた。
 路面に水風船でも叩きつけたような染みが飛散している。
 ち、血・・・?
 オレの血なのか?
 こんなに吹き出るのか・・・それに・・・すごい光だ。
 まぶしい・・・。
 死ぬ前に目の前が暗くなっていくってのはよく分かる。
 まばゆいどころか、耐えられないような光に包まれているのに、だんだん色が失われていくから。
 “もっと光を・・・”
 ゲーテが最期に遺した言葉の意味がはっきりと理解できる。
 政治家であり、科学者であり、哲学者でもあったヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ。
 あんた、最高の詩人でもあったんだな。
 かなり暗くなってきた。
 痛みはない。
 ただ悲しいんだ。
 死にたくないよ。
 でも・・・これが死ぬってことなのか・・・ごめんよ、静ちゃん・・・蘇我さん・・・。


(12)に続く

2013/01/01 初版

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